「伝統医薬品」はミャンマー人、特に中年女性の間では信頼性が高い。ミャンマーの伝統的医薬品業界で2位のメガパワー(本社:ヤンゴン)の創業者で、伝統医療の免許をもつ医者であるチョー氏(82歳)は、伝統医療の信者のひとりだ。メガパワーは2000年に、伝統医療を専門とするクリニックをヤンゴン市内にオープンし、1日およそ5~10人の患者を診察する。訪れる患者のほとんどが中年女性だ。
■支持される4つの理由
伝統医薬品はなぜ、中年女性に支持されているのか。チョー氏は主に4つの理由があると説明する。
1つは、市販の薬と比べて伝統医薬品は副作用が少ないこと。メガパワーの売り上げトップ3は「BLOOD PURIFICATION(血液良好化)」「VITIS REPENS (がんの予防)」「LAXATIVE (かぜ薬)」。いずれも副作用がないことが人気の理由だとチョー氏は語る。
2つめは、病気にかかる前に予防薬として飲んでも大丈夫という点。市販の薬は副作用のあるのも多いため、予防薬として使えるものは少ないという。
3つめは、伝統医薬品は重い病にも役立つこと。クリニックを訪れる中年女性の患者が抱える病気は子宮頸がんや乳がんが多い。チョー氏は「17年でおよそ1万人の患者を診断してきたが、症状が重くなって亡くなった人は3人しかいない。それ以外の患者はみんな症状が和らいだ」と伝統医薬品の効果を語る。
例を挙げると、子宮頸がんの患者が来た時、他の医者から余命宣告を受けていたが、今では家族と元気に過ごせるくらい回復した患者がいる。チョー氏がこの患者に渡した伝統医薬品はVITIS REPENS。これはシャン州の高山地域(標高914メートル以上で、年間の降水量30~40ミリメートルの地域)のみでしか採れない希少価値の高いハーブを乾燥させたもの。VITIS REPENSの効果をメガパワーは10年前から患者に聞いているが、「ほとんどが症状の和らぎを実感したと答えた。乳がん、子宮頸がんの悩みを抱える中年女性はこの薬を信頼している」(チョー氏)。
4つめの理由は、伝統医薬品の幅広い効能だ。かぜ薬などの日常的な痛みや辛さから重い病気まで効く、とチョー氏は熱弁をふるう。人気商品のひとつLAXATIVEを例にとれば、頭痛からせき、のどの痛み、熱まで、かぜのあらゆる症状に効くという。そのうえ値段も1500チャット(約125円)と安く、庶民の味方だ。
■「西洋の薬」を信頼する
しかし、伝統医薬品が他の世代のミャンマー人にも信頼されているわけではない。ヤンゴン大学に通う学生7人に「西洋の薬と伝統医薬品、どちらを信頼するか」と聞くと、全員が「西洋の薬」と答えた。
その理由は主に2つある。
1つめは西洋の薬は、ミャンマー政府が認可しないと販売できない点にある。ミャンマーの薬局で販売される医薬品は90%がインドや中国などの近隣国からの輸入品だが、これらの医薬品をミャンマーで登録するには、自国で臨床試験をした後にもう一度ミャンマーで行う必要がある。登録の有効期限は5年と極端に短い。
2つめは、伝統医薬品は長期的な治療に向かないという点にある。ヤンゴン大学に通うニーチーさん(19歳)は「お父さんの友だちがお酒の飲みすぎで肝臓を傷めた。その時に一度、伝統医薬品を使ったけれど、なかなか治りそうもなかったため、西洋の薬を使った。かぜなどの短期的な症状には伝統医薬品を使ってもいいけれど、重い病気は別」と語る。
このほか、伝統医薬品は「ものによっては(乾燥させたハーブを水で溶くなど)手間がかかる」「付けたときのにおいが臭い」といった理由を挙げる声があった。
伝統医薬品に批判的な若者だが、ユニークなのは家では使っていること。なぜなら中年女性が若者の親の世代だからだ。「自分のお小遣いで薬を買いに行くぐらいなら、親が持っている伝統医薬品を使うわ」と大学生のヒンナンさん(19歳)は言う。
民主化が進み、急激に発展していくミャンマー。国民の生活が豊かになり教養が広まったとしても、伝統医薬品は庶民に信頼され続ける存在でいるのだろうか。