■実を結んだ虐待撲滅キャンペーン
アルジャジーラによれば、サウジアラビアで8月26日、ドメスティックバイオレンス(DV)などを禁ずる「虐待からの保護法」が成立した。すべての虐待から女性や子どもを保護することと、被害者にシェルターや社会的、心理的、医学的支援を提供することを目的としている。心理的・身体的暴力を犯した者は、1年以内の禁固刑、または1万3300ドル(約132万円)以下の罰金が科される。90日以内に施行される見通しだ。
虐待からの保護法が成立した背景には、2013年4月にインターネット上をめぐった1枚の写真があった。ニカーブ(目だけを見せるイスラム女性の服装)をまとった女性が、あざの残る目だけをのぞかせている写真だ。
アラビア語で「隠せない何か―女性への暴力に対して共に戦う」と書かれたこの写真は、サウジアラビアのチャリティー団体キング・カリド・ファンデーションが、国内初の虐待撲滅キャンペーン用に作ったポスターだ。このキャンペーンは、「サウジアラビア国内の女性と子どもに、暴力からの法的保護を与える」ことを目的としている。
■6人に1人の女性が暴力の被害に
イスラム教に基づく厳格な法律、シャリーアを適用しているサウジアラビアでは、法律や伝統に基づき、女性に数多くの制限が課せられている。例えばビジネスや就職活動、国外旅行をする際には、父親や夫、息子など、男性の後見人が必要で、女性ひとりで活動することは許されない。
サウジアラビアのラジオ局「ラジオ・ジェダー」のチーフ・ブロードキャスター、サマー・ファタニー氏によると、サウジアラビアでは毎日、6人に1人の割合で女性が肉体的暴力だけでなく、言葉の暴力や精神的暴力を受けているという。加害者の90%は父親か夫だ(サウジ・ガゼット、2013年3月23日)。
そのほかにも、メイドが主人から虐待されるケースもあり、時にはメイドの子どもにまで暴力が及ぶ。
法案の作成に協力した国際人権団体ナショナル・ソサエティー・フォー・ヒューマン・ライツのカリド・アル・ファカー事務局長は「アルジャジーラの取材に対し、サウジアラビアで女性への虐待が横行しているのは、女性が暴力の被害を公表できずにいるためだ」と答えている。暴力を受けたことが知られると、その女性は社会的偏見にさらされるからだ。
■女性の意識改革も必要
サウジアラビアは、女性やメイドを暴力から保護する法律がないことにより、たびたび国際的な批判に直面してきた。虐待からの保護法は、女性を保護する上で重要な法律になる。だがこれまでの慣習を破り、女性が虐待の被害を公にできるようになるには、課題がまだ多いと言えそうだ。
作家でコメンテーターのネスリン・マリク氏は、8月30日付のガーディアンで「プライベートなことは外部から不可侵の領域であるとされている社会で、家庭の事情に法律を持ち込むことに慣れていなかったり、事実を受け付けない家族がいるなか、この法律は大きな課題にぶつかるだろう」と述べた。
女性に対する暴力の撲滅には、男性側の意識変革や社会の構造改革だけでなく、伝統的な社会で育った女性の意識変革も必須となる。(齋藤友理香)