世界初の代理母専用の寮が、インド・グジャラート州の小さな都市アナンドに建設中だ。9月30日付BBCによると、インド人のナイナ・パテル医師が経営する寮で、100人の女性を収容できる。女性たちは着床後、約9カ月間をこの寮で過ごし、生まれた赤ん坊は西側諸国のカップルに引き取られる。まさに「ベビー工場」だ。
ナイナ・パテル医師はすでに、代理母出産や不妊治療を専門にするクリニックを経営している。過去10年で、約600人の赤ん坊を依頼人カップルのもとに届けた。ただ当事者以外からは「赤ん坊を売っている」「赤ん坊の生産工場だ」などと非難の声は大きく、ナイナ・パテル医師は、その執拗さに死の恐怖さえ感じたこともあるという。
■報酬は1回80万円! 夫の収入の20倍以上
だが「代理母は公平な取引」というのがナイナ・パテル医師の意見だ。「女性たちは、肉体労働の仕事(代理母出産をすること)をしている。苦労せずに利益を得ることはできないと分かっている。代理母は、誰かを助けるひとりの女性にすぎない。私はフェミニスト(女権獲得・女権拡張・男女同権を訴える人)だ」と主張する。
寮では、刺しゅうなど新しいスキルを女性たちに身に付けてもらう計画だ。出産して寮を出た後、生計をきちんと立てられるようにすることが狙い。ベビー工場は、女性のエンパワーメント(社会的な力を付けること)の役割も果たす。
代理母の報酬は、インドではとてつもなく大きい。5歳と8歳の2児の母で、日本人カップルの子どもを身ごもっているバサンティさん(28歳)の場合、夫の月収は約40ドル(約3900円)だが、代理母であるバサンティさんの報酬は約9カ月で約8000ドル(約78万円)。1カ月当たり900ドル(約8万8000円)近い。これは夫の20倍以上になる。
報酬のルールは細かく決まっている。双子を出産するとボーナスが加算され、約1万ドル(約97万4000円)に。3カ月以内に流産した場合は約600ドル(約5万8500円)に減額する。代理母出産を依頼したカップルが医師側に支払う額は、出産の成否にかかわらず約2万8000ドル(約273万円)となっている。
■市場規模は100億円、代理母は3度まで
バサンティさんは、代理母になった理由について「私が夢みてきたものすべてを、自分の子どもに与えたかったから」と話す。「代理母で得る報酬で、新しい家を建て、自分の2人の子どもたちを英会話学校に通わせる。それには十分な金額。心の底からうれしい。娘にも代理母になってほしい」
だが、バサンティさんは新しい家を今まで住んでいた地域には建てないという。代理母になったことを隣人に知られたら、批判や嫌がらせを受ける恐れがあるからだ。
ナイナ・パテル医師によると、なかには2度目の代理母を希望する女性もいる。ただ代理母になれるのは3回までと法律で決められている。
インドの代理母産業の市場規模は年間1億ドル(約9億8000万円)以上といわれる。背景にあるのは貧困だ。「インド人の3人に1人は貧しい。貧困が、インド人女性が代理母になることを後押ししている」とナイナ・パテル医師は強調する。
貧しさ以外にも、「信頼のある医療サービスを利用でき、その費用が比較的安いこと」「代理母は赤ん坊に対して負う義務がないこと」といった理由も代理母になることを助長している。ナイナ・パテル医師は「(インドでは)代理母出産は法的に認められているはず」と言い切る。だが、先進国側が代理母出産で生まれた子どものパスポートを発行しないなど、帰国時のトラブルは珍しくない。先進国のカップルが途上国の女性を代理母として雇うのは貧困女性の搾取だという倫理上の問題もある。(有松沙綾香)