【yahman!ジャマイカ協力隊(16)】「陽気さ」と「責任転嫁」は相関関係にある? 謝らない国民性を考察する

オーチョリオスの全景。観光客向けのホテルやショッピングセンターが建ち並ぶ。以前は、クルーズ船がひんぱんに立ち寄っていたため、活気ある街だった。ところが寄港ルートが変わり、観光客が減って閉鎖に追い込まれた店も多いようだ

■シーツがないのは私のせい?

「信じられない!」。私はカチンときて、ホテルのフロントスタッフに詰め寄った。

ここはジャマイカ中央部の街オーチョリオス。日本から両親が遊びにやってきたので、私たちはホテルにチェックインし、エクストラベッドを頼んだ。部屋に案内してくれたスタッフは「別のスタッフがすぐに、エクストラベッドのベッドメイキングにやってきます」と言ったが、なかなか来ない。なので私たちは街を観光し、夕飯を食べに出かけた。

ホテルに戻っても、エクストラベッドはおろか、シーツもまだ準備されていなかった。フロントに電話しても出ないので、私は1階に下り、スタッフをつかまえて事情を説明する。すると、驚くような言葉が返ってきた。

「ベッドメイキングをするスタッフはみんな帰ってしまったわ。いまさらそんなことを言われても、どうにもできない。どうしてもっと早く言ってくれなかったの?」

冒頭のシーンは、この対応に私が怒りを爆発させたもの。「すぐ来る、と言ったでしょ。だから、私たちは待っていたのに、誰も来なかった。これは私の責任じゃなくて、あなたたちの責任でしょ? シーツがなくてどうやって寝ろというの? 何とかしてください!」

私の怒りがやっと通じたのか、フロントの女性はようやく重い腰を上げ、どこかに電話した。「マネージャーが来るから、ちょっと待ってて」。一言の謝罪もなしにそのまま去っていく姿は堂々としていた。

こういったハプニングはジャマイカでは日常茶飯事だ。たとえ自分に非があったとしてもジャマイカ人は認めないし、めったなことで謝らない。何かにつけてペコペコする日本人とは本当に対照的。幸いにして両親はジャマイカ人の陽気さが気に入ったようだったが、両親に楽しく過ごしてもらいたくて必死だった私は、イライラとヒヤヒヤがマックスに達していた。

■いま言いたいことをいま言う

国際空港のあるモンテゴベイでは逆に、ジャマイカ人を怒らせた出来事があった。両親が日本に帰る前日、タクシーをチャーターしたときのこと。買い物をしてからホテルまで送ってほしいと伝えると、タクシー運転手は「買い物をしている間は、どんなに時間がかかっても待つよ」とOKの返事。運転手との交渉はまとまったはずだった。

ところがスーパーマーケットや土産屋で買い物し、ピザをテイクアウトしてタクシーに戻ると、運転手がいきなり怒鳴り始めた。

「どこに行っていたんだ。3時間も経っている。夜になっちまった。追加料金をもらうからな!」

ものすごい剣幕に一瞬圧倒されたが、私もジャマイカ生活で鍛えられている。ふつうの従順な日本人ではない。

「タクシーに乗ってから1時間半しか経っていないし、そもそも『いくらでも待つよ』と約束したでしょ。レジには長い行列ができていたから、ちょっと時間がかかってしまっただけ」と言い返し、追加料金を払うつもりはないと告げた。

運転手は納得した様子はなかったが、私に取りつく島がないことを理解したのか、無言で車を出し、ホテルまで送ってくれた。

このエピソードも、自分が交わした約束を棚に上げて、私に責任を押し付け、自分に非がないと主張している。おそらく運転手は、買い物の時間が予想以上にかかったことで割の悪い仕事だとムカついたのだろう。過去(1時間半前)に言ったことなどお構いなく、不満を私にぶつけてきた。いま言いたいことをいま言う。これが典型的なジャマイカ人のスタイルだと思う。

■反省しないからストレスフリー?

ジャマイカ人の国民性は「陽気でおおらか」といわれる。私もそう感じている。いつも明るいし、小さなミスをしても「ノープロブレム」と笑って済ます。言い換えれば、ベッドのシーツを忘れたぐらいで、誰かが目くじらを立てるとは思わない。生死にかかわるわけでもなるまいし、自分が悪いと反省することはない。起こったことは仕方がないでしょ、と受け入れるわけだ。

もし気に食わない事態が起きれば、他人のせいにするだけ。イベントを開いても集客が悪ければ、天気に責任転嫁をするのは常套手段。食べ物をくれ、と物乞いに言われ、断ったら罵詈雑言を浴びせられた経験もある。

ジャマイカ人の考え方や対応は、「反省が美徳」とされる文化をもつ日本人とは対極にある気がする。日本のように責任を必要以上に感じてうつになる人もほとんどいない代わりに、自己成長は望めない。もっといえば、ジャマイカ人がいつも陽気なのは、悪い出来事が降りかかってきても、自分以外に責任をなすりつけるからストレスがたまらないのでは、と思わなくもない。

陽気なジャマイカ人と一緒にいるのは楽しいし、生活の面でいろいろ助けてくれる。けれども一緒に働くとなるとやっぱり大変。たまには反省してくれないかな、と私は心の中でこっそりつぶやいている。

 

原 彩子(はら・あやこ)
ジャマイカ・ポートアントニオ(ポートランド州)で活動する青年海外協力隊員(職種:環境教育)。埼玉県出身。日大芸術学部卒。在学中は、フィリピンの児童養護施設を運営するNPO「CFF」で奨学金支援チームのメンバーとして活躍。電機メーカーに3年半勤務した後、2012年2月から、ジャマイカの農業NGO「ジャマイカ4-Hクラブ」ポートランド事務所で活動中。