【フィジーでBulaBula協力隊(5)】ぽっちゃりがモテる神話は崩壊? フィジー人の“変わる価値観”と“変わらない食生活”

フィジー人の中年女性の後ろ姿にはどこか安心感がある。一時の滞在であろうと、外国人であろうと、気前よく歓迎してくれる

南太平洋ではふくよか人がモテる。こんな話を聞いたことはないだろうか。からだが大きいことは富や健康、多産を意味し、縁起が良いというのがその理由だ。フィジーでも実際、大柄な男女が多い。

ところがその“伝統”がここにきて変わりつつある。フィジー人の間でも、スリムな体型は「きれい」「かっこいい」と認識されるようになったのだ。今回は、現地で暮らす協力隊員からみた「フィジー人の美男美女の基準と食生活」について考えてみたい。

■スリムな体型はあこがれ

「やせていると、服が似合って、クールじゃない?」「それにモテるのよ」。

近所に住むフィジー人の女性は、レストランのいすに深く腰をかけながら、私にこう話し始めた。そう言う彼女の前には、コーラと油をたっぷり使ったチョーメン(フィジーの焼きそば)が置かれている。ちなみに彼女のスタイルはお世辞にも細身とはいえない。

「そのメニューはカロリー高いでしょ?」。私が突っ込むと、ダイエット中の彼女はこう返してきた。「栄養価の高いキャッサバとココナツ料理を控えているから大丈夫よ!」。私は、大丈夫なわけないよ、という言葉を飲み込み、笑って見過ごした。

「やせている=きれい」という価値観は、フィジー人の間でも徐々に浸透している。町中の洋服屋にはすらりとした西洋人のポスターが貼られ、細身のジーンズも人気を博す。ついこの前は、フィジー第2の都市ラウトカで、ジムのダイエット教室まで見かけた。一昔前のフィジーでは考えられなかったことだ。

体型を一番気にするのはやはり、十代後半から二十代の若い世代。特に女性だ。テレビや外国映画の影響もかなり大きいのだろう。縮れた髪の毛をヘアーアイロンでまっすぐにし、ぴったりとしたシャツにスリムなパンツを合わせるのがはやっている。

■食べすぎで30歳から激太り

おもしろいのは、スリムな体型にあこがれる人たちが体型を保つために何かをしているのかといえば、多くはそうではないこと。むしろダイエットとは真逆の食生活・習慣にどっぷりつかっている。

フィジー人の食事はワンパターンだ。朝はビスケットと砂糖たっぷりの紅茶。昼と夜は、ゆでたキャッサバに、肉を少し入れたインスタントラーメンをすする。

食事そのものはとても質素。ただなんせ食べる量がすごい。それに加えて、お昼前のモーニングティー、極めつけは間食のスナック菓子。オフィスで食べ、移動中のバスで食べ、と食べ物をとにかく離さない。

こうした食生活を続けていると、必然の結果として、とりわけフィジー人女性は30歳を過ぎたあたりから急激に胴回りが太くなる。「ふくよか」な程度ならまだ良いのだが、体が横に大きくなり過ぎて、歩くのがやっとという人もいる。

からだへのダメージはもちろん深刻。糖尿病や高血圧など、肥満からくる生活習慣病を患う人は多い。私が暮らすシンガトカ町の保健所によると、フィジー人の死因の6割以上が健康問題によるものだそうだ。

「食事の仕方がからだに良くないとはわかっているんだけれどね。ずっと続けてきたからなかなか変えられないのよ」。私の配属先であるシンガトカ町役場の受付で働くフィジー人の中年女性はため息をつく。

スリムな体型にあこがれるけれど、食生活は変えられない‥‥。理想と現実の狭間で悩むフィジー人たち。想像するに、食生活が変わらない限り、体型は変わらない。体型を変えるには食習慣を見直さなければ無理のような気がする。ただスリム志向が多少強いとしても、フィジーの食生活が変わるかどうかは疑問だ。

フィジー人の苦悩はさておき、私は、巨体を揺さぶってにっこりとあいさつしてくれるフィジー人をみると不思議と落ち着く。体型からくるおおらかさは間違いなく「フィジーらしさ」のひとつだと思う。でもこんなことを言ったら「あなた、古いタイプのフィジー人のように、太った女性が好きなの?」と突っ込まれてしまうかもしれない。