- 「国際協力大綱」の閣議決定でNGOが緊急声明、「非軍事原則の徹底を」
- 国際協力大綱の政府案公開、NGOは「ODAの“間接的な軍事利用”の可能性」「経済最優先のアプローチ」を懸念
- アフリカは「資源の輸出」に頼らない経済を! TICAD VIでNGOが提言
- 【interview】きょうから釜山ハイレベルフォーラム、JANICの水澤恵調査・提言グループマネージャーに聞く「パリ宣言・アクラ行動計画からさらなる前進を」
- 「カンボーザ銀行でファイナンスの仕事をしたい」、AAR Japanの職業訓練校に通うミャンマー人障がい者
- テロへの無人機攻撃は“無法状態”だ、「国際ルールを策定すべき」とヒューマンライツ・ナウ
「ビジネスと社会貢献を別々に考えることに意味はない。ビジネスは社会に貢献するために存在している。社会を変えていく活動こそが企業活動だ」
これは、「留職プログラム」で注目を集めるNPO法人クロスフィールズの小沼大地代表理事の言葉だ。同氏は10月15日、大阪市内の大阪イノベーションハブで講演し、留職プログラムの目的や仕組みを説明しながら、留職が生み出すイノベーションについて熱弁を振るった。
■“企業版協力隊”を目指す
留職プログラムとは、日本企業の社員が会社の業務からいったん離れ、自らのスキルを武器に、アジアの新興国のNGOでボランティア活動をするもの。期間は数カ月。派遣される社員は自らのスキルを使い、現地の人たちと一緒に社会課題の解決に挑む。国際協力機構(JICA)の青年海外協力隊の“企業版”といえばイメージしやすいだろう。クロスフィールズは、企業とNGOのマッチングからフォローまでを担う。
このプログラムは、新興国のNGO、日本企業の双方にとってメリットがある。NGOにしてみれば、日本企業の社員のスキルを借りて、現地社会が抱える課題を解決できるし、また日本企業からすると「グローバル人材の育成」「新興国市場の開拓」「組織の活性化」につながる。
小沼氏は「派遣される社員にとって、自分のスキルで社会貢献できると実感できる経験は嬉しいはず。帰国後に、仕事に対するモチベーションが高まったという話はよく聞く」と“留職効果”を強く訴える。
派遣者からは「日本に帰国してから、仕事で失敗することが増えた」との声も寄せられているという。これについて小沼氏は「失敗が増えたのは挑戦している何よりの証拠。新興国の現場で課題と向き合い、現地の人たちを深く理解し、彼らとともに新しいことを生み出していく経験をして、『働くってこういうことなんだ!』という“原体験”を得たから、チャレンジ精神がわいたのではないか」と分析する。
原体験を共有した仲間と、今度は企業の立場から、新興国の問題解決につながるビジネスを立ち上げていく。その熱の輪が広がっていき、新たな商品・サービスとして昇華する。「これこそがいま日本企業に求められていることではないか」と小沼氏は力説する。
留職プログラムをこれまでに導入した企業は、2012年2月のパナソニックを第一号に、テルモ、NEC、ベネッセ・コーポレーション、日立製作所など大手がずらり。小沼氏は「挑戦しないことがリスクになる。既存の仕組みに疑問をもち、自分の未来のため、日本の未来のために挑戦してほしい」と来場した学生や社会人らに呼びかけた。
■NGOで成果を残せるよう課題を絞る
クロスフィールズは、団体のミッションに「社会の未来と組織の未来を切り拓くリーダーをつくる」と掲げている。リーダーの育成が最大の目的であるため、派遣先のNGOを選ぶプロセスでは、参加者のスキルやニーズをもとに団体と業務内容のマッチングを行う。
だが気になるのは、たった数カ月の派遣で、日本企業の社員はNGOで成果を挙げられるのかという点。この懸念に対して小沼氏は「クロスフィールズの基本は、途上国に貢献すること。派遣先のNGOには、享受できる『3つのメリット』を伝えている」と説明する。
1)派遣期間中に、派遣先のNGOにとって意味のある成果を必ず残す
短い派遣期間なので、まずスコープマネジメント(プロジェクトの範囲を明確にすること)をして、期間内で取り組む業務を絞り込む。派遣先と日本企業双方のマッチングを確実にし、またプロジェクト開始後も業務内容を適宜修正するなどして、NGOの期待値を必ず満たす成果を出すことにこだわっている。
2)日本企業とのパートナーシップが新たなイノベーションにつながる
日本企業との協働は「NGOの活動が加速するきっかけになる可能性があること」「社会イノベーションの創出につながる可能性があること」を伝えている。クロスフィールズは、これらを実現するための支援を充実させる方向で動いている最中だ。
3)NGOの視点が日本企業に理解される
留職プログラムを通じて、新興国のNGOの考え方、現地社会への向き合い方が、日本企業に伝わる。NGOは、現地社会の発展に寄与するビジネスを立ち上げてほしいと思っているケースも少なくない。そういった現地の視点を日本企業がもてれば、より良い相互利益につながる。
■留職のモデルはIBMの協力隊
クロスフィールズの留職プログラムには、実はモデルがある。米国のコンピューター企業IBMの「コーポレート・サービス部隊」(CSC)という取り組みだ。“IBM版青年海外協力隊”といえるもので、2008年に始まってからこれまでに、世界30カ国以上に200以上のチーム(総勢2400人以上の社員)を送り込んできた。派遣される社員の国籍は50を超えるなど国際色も豊か。日本IBMの社員も含まれている。
CSCでは世界中のNGOとパートナーシップを結び、専門性や国籍、事業部が異なる10人程度のIBM社員で構成するグループを派遣する。期間は1カ月。IBMの強みであるICT(情報通信技術)を駆使して、現地のコミュニティーの課題を解決する。CSCプログラムの狙いは、途上国の課題解決に取り組むプロセスを通じて、問題解決力やコミュニケーション力、現場感知力などを社員に養ってもらうこと。次代のリーダーとなる人材の育成を目指す。
米国企業の間では、国際企業ボランティア活動(ICV=International Cooperate Volunteering)と呼ばれるスキームがポピュラーになりつつある。ICVとは、企業に勤めるプロフェッショナルな人材を新興国に送り込み、本業のスキルを生かして現地社会の課題を解決するというプログラムだ。
2006年時点では6社が導入し、全米で300人程度が派遣されていたにすぎなかったが、08年ごろから急速に拡大。11年には26社2000人以上を数えるまでになった。
日本版ICVを展開するクロスフィールズは近い将来、新興国と日本の関係だけにとどまらず、国内から国内への留職も進めていきたい意向だ。「厚労省の職員が地方の高齢者施設に、文科省の職員が過疎地の学校に行くなど、あらゆるセクターの横のつながりをつくりたい」と小沼氏は語った。(石岡未和)