「遠距離恋愛しているカップルはお互い現地にも恋人がいる。だから、現地の恋人2人を加えて4人で幸せを作るのさ(amor de lejos, felices los cuatros)」。これはドミニカ人の口癖。ドミニカ共和国の恋愛事情をとてもよく表したフレーズでもある。簡単に言ってしまえば“不倫は文化”ということ。4人の幸せを歌った曲もある、とドミニカ人は嬉しそうに私に教えてくれた。
ドミニカ人はフレンドリーでいつも笑顔。年代に関係なく、路上で私によく話しかけてくれる。あいさつを交わし、自己紹介をすると、二言目には決まって「結婚しているのか?」「子どもはいるのか?」「恋人はいるのか?」「現地の恋人はいるのか?」というプライベートな質問攻め。
私が「いない」と答えると、今度は「なぜ作らないのか」「電話番号を教えてくれ」とたたみかけてくる。しかもナンパしてくるのは若者だけでなく、初老の男性も現役という肉食ぶり。あまりにダイレクトな口説き方と妙な若さに、私は度胆を抜かれた。
ドミニカ共和国のスペイン語では、女たらしのことを「ティゲレ」という。本来は「トラ」という意味だ。街中にはティゲレたちがあふれている。ティゲレはとりわけ都会に多く、複数の女性と同時につきあうのを良しとする。二股ならまだかわいいもの。4人の恋人を同時進行させる強者も少なくない。
ティゲレは、実は女性にもいる。首都サントドミンゴ在住の1児の母で、語学学校のスペイン語講師は「私も若いときは同時に2人と付き合っていたわ。けど最終的には、結婚に向く落ち着いた男性を選んだの」。そして続けた。「女性は結婚すると変わるけど、男は何年経っても女たらしが多いわね」
ドミニカ共和国では、子どもが20人、30人いる男性は珍しくない。ご想像のとおり、同じ女性との子どもではなく、何人もの女性と関係をもったからだ。驚くことに、男性は、こうした子どもたちと好きなときに会い、子ども同士もきょうだいとして良い関係を保っている。聞くと、以前は、浮気や不倫に嫉妬したパートナーによる暴行や殺人などの事件も多発していたという。
私は、自分が暮らす田舎町ロスイダルゴスの高校生たちにも恋愛事情について聞いてみた。するとこんな答えが返ってきた。「田舎では恋人は作れない。だって村じゅうにうわさは広まるから、二股できないでしょ。アメリカ合衆国に恋人のいる若者も多いよ」
高校生はフェイスブックなどのSNSで知り合い、結婚した後、パートナーは出稼ぎでアメリカ合衆国に住むケースが多いようだ。
二股ありきの遠距離恋愛をふつうに楽しむドミニカ人たち。日本の草食系男子にもこの貪欲さを学んでほしいなと思いつつ、私は密かに、2年の任期中に何人のティゲレと出会い、どう口説かれるのかな、とちょっとだけ楽しみにしている。
種中 恵(たねなか・めぐみ)
ドミニカ共和国で活動する青年海外協力隊員(職種:環境教育)。配属先はプエルトプラタ県ロスイダルゴス市役所。1986年生まれ。大阪府出身。京都外国語大学でポルトガル語を専攻。大阪府の高校で英語教師として2年勤めた後、退職し、協力隊に参加。派遣期間は2013年7月~15年7月。