中南米の日系企業、業況が厳しいのはベネズエラ・チリ・アルゼンチン

日本貿易振興機構(JETRO)はこのほど、中南米7カ国(メキシコ、ベネズエラ、コロンビア、ペルー、チリ、アルゼンチン、ブラジル)に進出している日系企業に経営実態についてアンケート調査した結果を発表した。調査期間は9月6日~10月25日。回答企業数は436社(有効回答率58.8%)。ポイントを下にまとめた。

■好調なのはブラジル・メキシコ・ペルー

2013年の日系企業の業況感を示す「DI値」は21.1ポイント。前年の10.6ポイントから10.5ポイント上がり、2年連続の下落から持ち直した。DI値は、2013年の営業利益見込みが前年比で「改善」と回答した割合から「悪化」の割合を引いたもの。

中南米7カ国でトップだったのはブラジルの32.5ポイント。メキシコ(24.8ポイント)、ペルー(21.5ポイント)が続いた。対照的に低かったのはチリの2.8ポイント、アルゼンチンの3.3ポイントだった。

■ベネズエラを除き2014年はさらに上向き

2014年のDI値(見込み)は中南米全体で45.4ポイントと、2013年の21.1ポイントから大幅アップしている。

国別では、ベネズエラを除くすべての国で2014年のDI値は2013年の数字を上回る。ベネズエラは、政治経済の不安定さから先行き不透明であるため業況感が低い。

■76%がブラジル・メキシコで「事業を拡大する」

向こう1~2年の事業展開について、「拡大する」と回答した中南米の日系企業は全体の67.7%(295社)に達した。これは「現状維持」27.3%(119社)、「縮小する」4.1%(18社)を大きく上回っている。

国別でみると、「拡大する」と答えた企業の比率が最も高かったのはブラジルとメキシコで、ともに76.2%。次いでペルーの71.4%が入った。

対照的だったのがベネズエラとアルゼンチンだ。両国ともに「現状維持」と回答した企業が多く、その割合はそれぞれ68.4%、55.9%。輸入規制や為替管理、インフレ高進に伴う価格統制、政情不安など、今後の政治・経済の展開を見通せないことが理由だ。

■最大の経営課題は「賃金上昇」

中南米の日系企業に経営上の問題点を尋ねたところ、雇用・労働面では「従業員の賃金上昇」を挙げる声が73.4%(320社)を占めた。この数字は年々高まっており、最も大きな経営課題になっている。

これ以外では、「従業員の質」44.3%(193社)、「人材(中間管理職)の採用難」34.9%(152社)など。社員の質や数の確保に苦慮する日系企業の姿が浮き彫りになった。

■ブラジルの弱点は「手続きの煩雑さ」

また、アンケートの結果をもとに、日系企業が多く進出するブラジルとメキシコの課題を比べてみると、その違いが明白になった。

ブラジルで課題なのは「行政手続きの煩雑さ」「人件費の高騰」、「税制・税務手続きの煩雑さ」などだ。一方、メキシコでは、「治安、テロ」「従業員の質」「人材(中間管理職)の採用難」「従業員の定着率」「原材料・部品の現地調達の難しさ」を懸念する声が強い。

ただ「治安」についてはブラジルでも深刻だ。前回の14.9%から今回の調査では66.5%が課題として挙げた。これは、2013年6月のサンパウロでのバス・地下鉄料金値上げをきっかけに大規模なデモが発生したことが響いたためとみられる。

■55%が「現地調達は難しい」

生産面の問題点は何か。日系企業の55.2%(100社)が指摘したのは「原材料・部品の現地調達の難しさ」だった。「調達コストの上昇」が48.1%(87社)でこれに次ぐ。

現地調達の難しさを国別にみると、ブラジルは49.4%にとどまっている。これは、ブラジルはかねて関税障壁を高く設定し、地場企業の育成に努めてきたため、裾野産業がある程度存在することが背景にある。

これに対してメキシコは、現地調達率が低いが、自由貿易協定(FTA)や産業分野別生産促進プログラム(PROSEC)などの優遇関税を利用して原材料・部品を輸入しているという実情がある。