カンボジアのシェムリアップで無農薬野菜が密かに人気を集めている。チャンナン・ソピアンさん(28)が2014年に立ち上げた無農薬野菜だけを育てる組織「チョムカ・クマエ」(クメール農場)の月商は今や1000ドル(約11万円)と3年前の約5倍だ。ソピアンさんの夢は、自分が栽培する無農薬野菜をシェムリアップの全てのホテルに届けること。宣伝も兼ねて、外国人を対象にファームステイを2018年から始める計画だ。
■カンボジアに無農薬野菜を広めたい
ソピアンさんは2001年、農薬を使った野菜づくりを手伝い始めた。地元の大学で農業を専門に学んだのをきっかけに2014年、クメール農場を立ち上げた。今では15人の農民が参加する。
売り上げを大きく伸ばすきっかけとなったのは2016年。観光客向けのレストランを併設する高級ホテルへの売り込みを始めたことだった。「私はマーケティングに興味があった。高級ホテルなら、無農薬野菜を高値で買い取ってくれるのではないかと思った」とソピアンさんは話す。しかしホテルは最初、とりあってくれなかった。ソピアンさんは20回もホテルに通い、無農薬野菜の良さを力説。その苦労が実ってホテルと契約することができた。
クメール農場が無農薬野菜を現在届けるのは、シェムリアップ市内にある10軒の高級ホテル、レストラン、スーパーマーケット。米国出身の女優アンジェリーナ・ジョリーのシェムリアップでの定宿といわれるアマンサラホテルもその一つだ。
■無農薬野菜は手間がかかる
「無農薬栽培で大変なのは、害虫を予防することだ。異常気象だからか、例年より暑くなったり、雨が降らなかったり、ここ数年カンボジアの天気はおかしい。寄ってくる害虫を予測しにくくなった」(ソピアンさん)
ソピアンさんがいつも使う自然農薬は、唐辛子、砂糖、バンドゥペチ(カンボジアに自生する、葉っぱが苦い味の植物)をそれぞれ2.5キログラムずつと50ミリリットルの水を混ぜ、発酵させた液体。それを16リットルの水に入れ、スプレー状にしてまくと、害虫から作物を守ってくれるという。近所の農民が無農薬栽培を始める際、ソピアンさんは、殺虫剤を使わないで害虫を駆除するこの方法を教えている。
ソピアンさんによると、無農薬栽培では1年に1度、畑の土を変える必要がある。畑の土には、家畜の排世物と草木を混ぜた有機肥料を加える。手間のかかる作業だ。
苦労は農作業だけではない。野菜の販売量が不安定なのも悩みの種だ。値段が高い無農薬野菜は外国人観光客を間接的な顧客としているため、シーズンによって販売量の差は激しい。1日の販売量は、観光客の少ない時期(7~10月)は50~70キログラム、多い時期(11~4月)は150キログラムと倍以上も違う。
■需要が高まりつつある!
苦労が多い中でもソピアンさんは無農薬栽培を続け、その売り上げを伸ばしてきた。始めた当初の月商は200ドルほど(約2万2000円)だった。現在は、観光客の少ない時期で600ドル(約6万6000円)、多い時期で1000ドル(約1万円)だ。
無農薬野菜の需要が高まるにつれて、ソピアンさんは農地を広げてきた。2014年は1ヘクタールだった農地が現在は5ヘクタール。シェムリアップ近郊の農地1ヘクタール当たりの価格は2500~4000ドル(27万6000~47万2000円)。世界銀行の2016年のデータによると、カンボジアの1人当たりの国民総所得(GNI)1140ドル(約12万6000円)だから、3年で拡大した農地は平均年収の数倍の金額に匹敵する。「稼いだお金は土地の投資に費やす。スーパーに並ぶ野菜のだいたい2割も無農薬野菜になってきた」とソピアンさんは自信をのぞかせる。
ソピアンさんはまた、外国人を対象にしたファームステイを2018年から始める計画を練っている。滞在期間は3~6カ月が基本だが、どれくらい滞在するかは本人の自由。値段は無料。彼の無農薬野菜の宣伝も兼ねると同時に、外国人にカンボジアの無農薬野菜に親しみをもってもらうのが目的だ。
「自分の作った無農薬野菜をシェムリアップの全てのホテルに届けるのが夢だ」。ソピアンさんは最後に笑顔でこう語った。