カンボジアをはじめとする上座部仏教の国では、僧侶が托鉢でもらうお金は僧侶の「お小遣い」になる。世界遺産アンコール・ワット群のおひざ元で、観光都市シェムリアップの場合、住民の生活が忙しくなったため、食べ物の代わりにお金のお布施をする人が増加。その結果、僧侶のお小遣いが増えている。お小遣いの使い道は、スマートフォンの購入・通信費、交通費、家族への送金などだ。
数十年前までは、カンボジア人は托鉢僧に対して、お布施として家で作った朝ご飯を渡していた。だが今はお金を渡すことが多い。その理由は、シェムリアップでは観光客向けのビジネスが盛んなため、朝から働く人が少なくなく、朝ご飯を作らない家庭が増えたからだ。
これに対し「伝統的」な托鉢が今も続く地域もある。シェムリアップの隣の州のバッタンバンでは、お布施はほとんどが食べ物だ。お金を渡す人は少ない。托鉢でもらった食べ物で、バッタンバンの僧侶は朝食も昼食も賄えるという。シェムリアップでは昼食の足し程度の食べ物しか集まらない。
お布施としてのお金が増えたということは、僧侶のお小遣いが増えたことを意味する。パランカ寺で現在、出家生活をするダムホムさん(22)は「親からの送金もないし、お坊さんは仕事をしてはいけないから、托鉢が唯一お金を得られる手段なんだ。托鉢でもらえるお金は、自分の好きなものを何でも買えるくらいかな」と笑いながら話す。
托鉢でもらったお金は僧侶のお小遣いであるから使い道は自由だ。12歳で出家し、現在ポランカ寺で修行をするソークンさん(28)は「ずっと昔はお金がなくても寺で生活できた。今のように便利な製品もなかったから、モノを買う必要がなかった。でも今は自分の欲しいものを自由に買えるお金がないと困る。情報を仕入れるためのスマホも、移動するための交通費も必要」と話す。
カンボジア人は僧侶個人にお布施をするほか、お寺に対してお布施をすることもある。その場合は、托鉢僧に渡さず、お寺にお金を持っていく。お寺にお布施をしたお金は、境内の僧房(僧侶の寝泊まりする場所)の建築費や食費など僧侶の生活費になる。
増えているお小遣いとは対照的に、生活費は足りない。ポランカ寺の修行僧で、生活班のリーダーでもあるダヴィットさん(27)は、メンバー35人全員の食費に朝5ドル(約550円)、昼15~35ドル(1700~3900円)を充てる。寺に住み込み、僧侶の世話をする女性たちが市場で材料を買ってつくる。
僧侶たちは、托鉢でもらった肉や魚、フルーツなどを生活班で共有するときもある。「朝食はおかゆ、昼食はスープが多い。正直言って十分じゃない。けれど仕方ない。寄付してもらって食べられるのだから、感謝したい」(ダヴィットさん)