「この写真の馬の色は何色?」という先生の質問に、「茶色!」と18歳から30歳の生徒が大きな声を上げて答える。ヤンゴン郊外にある知的障害者自立支援団体が運営する施設での授業のワンシーンだ。彼らの多くは家族や周りの人の助けがないと生活できない。身体的障害をもつ26歳の副代表はそんな「彼らを雇ったカフェを開くこと」が夢だと話す。
2010年、知的障碍者15人とその親を中心に施設は設立された。障害者たちに職業訓練を施し、自分の力で稼げるようにすることを目標にする。食べ物の名前や色、お金の使い方など、生活で必要不可欠な知識を身につける。生徒の数は50人ほど。1か月に1度3、4日の合宿を行い、助けを借りなくても生活できる力を養う。
「彼らは自分たちの意見を外に発信、主張する機会が無い。だがそれを改善しようとする人がいない」。『フューチャースターセルフアドボカシーオーガナイゼーション』副代表のカンテナイさん(26)は19歳で障害者向け学校の先生になり、さまざまな障害を持った人と接するなかでこの問題に気付いた。「彼らにも人権を与えたい」という強い意志をもった若者はこの施設の創設メンバーの一人だ。
ミャンマーでは知的障害者に対する理解が高くないといえる。彼らのことを障害者としてではなく、頭が悪いと考える人がいる。ミャンマーのコメディ映画の中には、知的障害者を笑いの対象として描く場面もある。
「彼らはばかじゃない」。社会にこのメッセージを伝えたいと、カンテナイさんが温めている秘策が「知的障害者カフェ」である。知的障害者たちをウェイターとして2~3時間の短時間アルバイト形式で雇い、彼らに自分でお金を稼ぐ喜びを味わってもらう。同時に経済的な自立も促す。知的障害者にとって、テーブルを片付けながら来店客を接客するというような同時進行作業は負担が大きい。「どれだけの時間をかけてでもゆっくり気長に教えていく」とカンテナイさんは彼らの可能性を信じている。
一服しようとヤンゴンのカフェに足を踏み入れると、ミャンマーコーヒーや紅茶を運ぶ知的障害を持ったウェイターに「ミンガラバー(こんにちは)」、と迎えられる日もそう遠くはないのかもしれない。