毎年600社以上のベンチャー企業が誕生するイスラエル、成功の秘訣は「フツパー」精神にあり!

イスラエルのベンチャー事情について「ジェトロ夏期公開講座 in 大阪」で講演する奈良弘之/イノベーション促進課長

日本貿易振興機構(JETRO)・アジア経済研究所の奈良弘之イノベーション促進課長はこのほど、イスラエルの起業ブームをテーマに大阪で講演した。イスラエルに5年駐在した奈良氏は「イスラエルで多くのベンチャー企業が成功する秘訣は『フツパー』という言葉にある」と語る。フツパーとは「大胆さ、厚かましさ、しつこさ」を意味するヘブライ語だ。

フツパーはイスラエル人起業家の気質を表している。奈良氏は「イスラエル人は、日本人だと失礼ではと思うほど大胆。良い意味で厚かましい。ビジネス、特に起業の場面ではそれが良い方向に作用する」と語る。

JETROのプログラムでイスラエルを視察した日本企業の担当者らも「イスラエルのベンチャー企業は、単に技術を開発するだけではない。その技術をどう売り込むかはもちろん、初めからグローバルに受け入れられることを前提に考えている。そのためアイデアの広がりが深い」と口をそろえる。

イスラエルの多くのベンチャー企業は経営が軌道に乗ると、米国のグーグルやマイクロソフトいった大企業に買収・合併されるケースが一般的だ。日本のベンチャー企業が株式公開を目指すのとは対照的。奈良氏は「起業して会社を成長させ、ビル・ゲイツ氏のような投資家に買収されたい、と考えるイスラエル人起業家は少なくない。日本のベンチャー企業の多くは、大企業が独占する分野には挑戦しない。だがイスラエルのベンチャー企業はそういった分野で大胆にビジネスを始める。結果的に多くのベンチャー企業が大企業に買収される」と言う。

奈良氏はまた、「フツパーの精神は教育にも浸透している」と話す。JETROが2016年にイスラエルで開催した「年次国際サイバーセキュリティー展」には、地元の小学3年生が見学に来ていたという。

「日本の小学3年生はそもそもサイバーセキュリティーが何か分からないだろう。日本人の感覚なら、そういうところに子どもを連れて行くのは失礼と考える。でもイスラエル人は気にしない。こうした“厚かましさ”がイスラエルを起業大国にしている」(奈良氏)

イスラエルではこのところ起業ブームが続く。米国のダウ・ジョーンズ・ベンチャーソースの2015年の調査によれば、ベンチャーキャピタルのイスラエル人起業家への投資額は約26億ドル(約2800億円)。日本人起業家への約8億ドル(約880億円)の3倍以上だ。加えて毎年600社以上のベンチャー企業が誕生しているという。

奈良氏は「イスラエルは建国から69年しか経っていない。自分の国をもつことすら許されなかった歴史がある。何もないからこそ、自分たちがやらなければならないという強い意志をもつ起業家が多いのではないか」と講演を締めくくった。