教育を変えるには先生から! シャンティ国際ボランティア会がラオスで小学校教師の能力アップを支援

3つの異なる学年の児童が一緒に学ぶ複式学級の授業の様子(ラオス・ヴィエンカム郡)。教師は45分か90分の授業の中で、教室の中を行き来しながら、授業と間接指導を繰り返す(写真提供 SVA/川畑嘉文氏)

シャンティ国際ボランティア会(SVA、本部:東京・新宿)ラオス事務所の加瀬貴所長は10月12日、同団体がラオスで進める小学校教師の指導力強化プロジェクトについて都内で講演した。SVAが活動するのはラオス北部のルアンパバン中心部から約200キロメートル離れたヴィエンカム郡。2014年から、複式学級の運営ハンドブックを作ったり、授業の質を高めるために教師を研修したりしてきた。加瀬氏は「児童の成績をアップさせるためには教員の指導力を上げることが大事」と話す。

このプロジェクトは、SVAがラオスの教育スポーツ省、ルアンパバン郡の教育事務所、教員養成学校と共同で進めるもの。最大の目玉は、ひとりの教師が同じ教室で異なる学年の授業を同時に担当する「複式学級」の運営ハンドブックを作ることだ。ヴィエンカム郡には複式学級のある小学校の割合が高く、郡全体の81%を占める。これはラオス平均の33%を大きく上回る。

運営ハンドブックでは、グループ学習やペア学習を積極的に取り入れることを推奨している。児童同士の学びあいを促すことで、短い時間でも理解を深めさせるためだ。また、教師がある学年の授業をしている間、授業を受けていない学年の児童に対して自主学習をさせる「間接指導」のやり方も記載した。たとえば高学年の児童の場合、思考力を鍛えるために、教科書の登場人物の心情を書きださせるなどだ。

プロジェクトのもうひとつの柱は、複式学級の運営方法の研修を提供すること。対象は、郡内の教師約200人。研修期間は半年。運営ハンドブックをもとに、教師らはグループで授業の目的や方法、時間配分を書いた指導案を作り、グループの代表者が実際に小学校でその指導案に沿った模擬授業を行う。その結果を教師同士が評価しあう。

ほとんどの教師はこのプロジェクトが始まる前、間接指導のときに自主学習の課題を出さず、自分の学年の授業の番が来るまで児童を待たせていた。課題を与えるにしても「教科書を読みなさい」「教科書を書き写しなさい」といったもの。「これでは児童の集中力は長く続かない」(加瀬氏)。間接指導のやり方を教師が知らなかったためだ。

このプロジェクトでは研修をやって終わりではない。郡内の小学校をSVAのスタッフが巡回し、研修で学んだ間接指導のやり方が授業に生かされているかどうかをチェックする。そこで見えた課題の改善策をまとめ、研修内容をブラッシュアップしていく。SVAはこのPDCA(計画・実行・点検・改善)サイクルを3年間で3度回した。

こうした取り組みが功を奏し、プロジェクトの成果は徐々に生まれてきた。今では指導案を作る教師は郡全体の9割に上る。加瀬氏は「教師らは詳しい指導案を書けるようになった。それだけでなく、間接指導の時間に見合った量の自習課題も出せるようになった。間接指導に気を配ることができるようになったため、児童が課題を早く終わらせたときは、追加の課題を与えることもできる」と手応えを語る。現場の教師らも「(授業の内容が充実して)児童の集中力が上がった」と喜んでいるという。

ヴィエンカム郡の人口の約90%は少数民族だ。カム族が77%、モン族が11%、テン族が1%。それぞれ民族独自の言葉をもつ。しかし学校で使われるのは公用語のラオス語。そのため児童は授業や教科書の内容を理解するのに苦労する。SVAは、教員の指導案作成の支援のほかにも、それぞれの民族の民話をもとに紙芝居や絵本を作り、読書を通して楽しくラオス語を学べる環境づくりをしている。

教員の指導案作成の支援や読書の推進活動は、国際協力機構(JICA)の草の根技術協力事業「少数民族の子どもたちのための、就学前・初等教育における指導能力改善事業」の一環。実施期間は2014~17年で、事業費は6725万円。

都内で講演するSVAラオス事務所の加瀬貴所長。「へき地で頑張る教員のリアルをつかみ、彼らを助ける活動が本当にできているか」を常に自問自答することを心がけていると語る

都内で講演するSVAラオス事務所の加瀬貴所長。「へき地で頑張る教員のリアルをつかみ、彼らを助ける活動が本当にできているか」を常に自問自答することを心がけていると語る