殺虫剤入りの蚊帳で魚を干すケニア人も! 環境問題に取り組む獣医師「開発援助の副作用」語る

殺虫剤入りの蚊帳「オリセットネット」で魚を干す写真について解説する神戸俊平氏

アフリカで40年以上にわたって野生動物の保護や環境問題に取り組む獣医師の神戸俊平氏は10月23日、都内で開かれたセミナー「ケニアの現場からみたSDGs(持続可能な開発目標)」(共催:アフリカ日本協議会、HANDS、SDGs市民社会ネットワーク)で、マラリアの予防に殺虫剤を練り込んだ蚊帳などを例に「開発援助の副作用」について講演した。このなかで「日本の援助は本当に現地の住民のためになっているのか」と警鐘を鳴らした。

■ハマダラカが死ぬ蚊帳

援助の副作用として神戸氏が最初に挙げたのは、住友化学が開発・普及させる「オリセットネット」だ。オリセットネットは殺虫剤を練りこんだ蚊帳で、マラリアを媒介するハマダラカは蚊帳に触れただけで死ぬ。世界で年間約43万人(2015年、世界保健機関=WHOの推定値)が死亡するマラリアの予防に効果があるとWHOも認める製品だ。企業の社会的責任(CSR)活動の成功例としてメディアに取り上げられることも多い。現在は国連児童基金(UNICEF)などの国際機関を通じて80カ国以上に配る。

だが神戸氏はケニアで、住民が使い方を間違えて、魚を干すための網としてオリセットネットを使っているところを目撃した。オリセットネットの上で魚を干すと、魚は殺虫剤を取り込んでしまう。「殺虫剤には発がん性が疑われる成分も含まれている。殺虫剤を吸収した魚を人が食べると健康被害が起こる可能性がある」と神戸氏は危惧する。

リスクはこれだけではない。「殺虫剤に耐性をもつ蚊が増えてきた。殺虫剤が入っていない、普通の蚊帳を配布したほうが良いのではないか」と神戸氏は言う。

■ODAでフラミンゴが激減?

もう1つの副作用は、日本の政府開発援助(ODA)プロジェクトとして1986年に始まった「大ナクル水供給計画」だ。このプロジェクトでは、ケニア中央部にあるナクル市に上水道を引くため、ナクル湖の外にダムを作った。ナクル湖に汚水が流入しないように、下水処理施設を拡張し、負荷を減らした。このプロジェクトを日本の外務省は、ナクル市と周辺地域の生活用水不足が飛躍的に改善した、と高く評価している。

ところが環境保全のやり方に問題があった。ナクル湖はフラミンゴの群れで有名な観光地だが、「水供給のプロジェクトのためにフラミンゴの数が100万羽から1000羽に激減した」と神戸氏は言う。フラミンゴの生息数を1000分の1に減少させた直接の原因は、エサとなる藻が少なくなったことだ。だが藻が減った理由を探ると、気候変動や生活・産業排水による汚染などさまざまな説がある。

神戸氏が問題視するのは、ナクル湖に流れ込む水の量が変わったことだ。「他の水系(川)からナクル市に水を引いてきて、使い終わった下水を処理した後、ナクル湖に流しているため、水の収支が変わったのが一番の原因。問題を解決するには、新しい水路を作って、増えた水をナクル湖の外に出し、水の収支を元に戻すしかない」と主張する。ODAなどを使って開発プロジェクトを始める際には、環境アセスメントの実施が義務付けられているが、まだまだ不十分だと神戸氏は指摘する。

開発プロジェクトのなかには、1つの問題に対しては成果をあげても、別の問題を引き起こすケースは少なくない。そうした副作用を減らすために役立つのが、「すべての人に健康と福祉を」「海の豊かさを守ろう」など17の異なる分野のゴールをもつSGDsの考え方だ。セミナーに登壇したSDGs市民社会ネットワークの新田絵里子氏は「開発、環境、保健、街づくりなど、各分野の専門家の間で連携がとれていないことが多い。SGDsの枠組みを使って、他分野の問題に気づくことが大事だ」と話す。