ミャンマー西部で暮らすイスラム系住民ロヒンギャがバングラデシュで難民になっている問題について、フォトジャーナリストの宇田有三氏はこのほど、神戸市内で講演し、「ロヒンギャ難民問題の解決を本気で目指すのなら、問題の背景を日本のメディアはもっと伝えなければならない」と苦言を呈した。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、国軍から迫害を受け、隣国バングラデシュに逃れたロヒンギャの数は60万人以上。ミャンマー国内のロヒンギャ人口は約100万人といわれることから、約6割が難民になった計算だ。ミャンマーを23年にわたって取材してきた宇田氏は「日本の多くのメディアは伝えないが、ロヒンギャ問題の本質はミャンマー軍政府が生み出した差別問題にある」と語る。
ミャンマーでは1962年、クーデターを起こした軍が実権を握る社会主義政権が誕生した。「軍事政権が目指したのは国の統一だった。『ミャンマー人』としてのアイデンティティーを国民に確立させるために、軍事政権は少数民族を徹底的に弾圧した」(宇田氏)。ロヒンギャもその例外ではなかった。
宇田氏はこれまで10年以上、ロヒンギャを含む少数民族をインタビューしてきた。「あなたは何人?」と尋ねると、10年前までは「私はコーカン族だ」「私たちはシャン族だ」など、それぞれの民族名を答える人が多かったという。ところが現在は多くの人が「ミャンマー人だ」と口をそろえる。宇田氏は「軍事政権が異なる文化・民族をおさえつけてきた結果だ」と分析する。
軍事政権に弾圧されたロヒンギャは「ミャンマー国内で『意識されない階層』に成り下がってしまった」と宇田氏は言う。「ミャンマーには、インド・パキスタン系など6種類のムスリム(イスラム教徒)がいる。同胞のムスリムたちがロヒンギャに賛同しないのは、声を上げると自分たちも迫害されるのでは、と恐れを抱いているからだ」と理由を説明する。
「こうした事実を日本のメディアは気づいていると感じる。だがボートに乗り込む『かわいそうな』ロヒンギャ難民の様子を伝えるほうが分かりやすい。ロヒンギャ難民問題の真の解決には、日本のメディアが問題の背景をもっと伝える必要がある」。宇田氏は講演をこう締めくくった。