米プリンストン大学の教授で、アメリカ人国際政治学者のアーロン・フリードバーグ氏はこのほど、笹川平和財団が主催する講演会「独裁主義体制の挑戦:中国、ロシアとリベラルな国際秩序への脅威」で、中国とロシアが独裁主義体制を残し、国際的な政治力を維持していくための戦略として情報技術(IT)を利用している、と分析した。フリードバーグ教授は「1990年代は、インターネットの普及で世界各国の政治、言論の自由度が進むと期待されていた。だが実際はそうならず、インターネットやビッグデータの発展が逆に独裁体制に力を与えることになった」と警告する。
フリードバーグ教授によると、中国とロシアは、「西側の」自由主義経済(市場経済)に参加し、その恩恵を受けて豊かになろうとする一方で、経済を完全に自由化するつもりはなく、また政治的に自由な体制も望んでいない。それだけにととまらず両国は、領土や影響力が及ぶ勢力圏を拡張し、大国としてのステータスを獲得する野心をもつ。10月18~24日に開かれた中国共産党の第19回大会でも実際、習近平主席は自由貿易が大事と言いながら、独裁体制を強めている。
中国とロシアの両国が独裁体制を強化するために使っている手段として、フリードバーグ教授は3つの方法を挙げる。
1つ目は、ビッグデータ、顔認識、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を使った信用調査などにより、国民を監視、抑圧する技術を洗練させることだ。「1991年にソ連が崩壊し、冷戦が終わったころは、統制経済では長期的に経済発展するのは難しいと思われていた。ところが、ビッグデータを用いれば、簡単に広範囲で詳細な監視ができるため、統制経済のまま、経済を発展させられる可能性が出てきた」とフリードバーグ教授は危惧する。
独裁を強化する2つ目の手段は、インターネットを含む情報統制だ。両国では、LINEなどの特定のインターネットサービスやサイトへのアクセスを禁止するネット規制が年々強化されている。「2000年にクリントン米大統領が『インターネットをコントロールしようとするのは、壁にゼリーを釘付けしようとするのと同じで無益だと証明されるだろう』と発言したが、それは間違っていた」とフリードバーグ教授は言う。
3つ目の手段は、国民に対して、イデオロギーの普及と洗脳をはかることだ。「個人より集団が大事。強い国家を目指す」という中国的、ロシア的な価値観で愛国教育をし、権力の腐敗や不正など「西側の」システムの欠陥をインターネットやメディアを使って広める。
フリードバーグ教授はまた、歴史的事件のとらえ方にも言及。「ロシアでは旧ソ連崩壊による国力低下を西側のせいにしている。中国では1840~1842年のアヘン戦争で敗北して以来のヨーロッパによる屈辱や、1989年の天安門事件でアメリカから制裁を受け孤立させられたことによる国民の憤りと恨みを利用して、国家に対する国民の支持を得ようとしている」と分析する。
講演会では「中国にどう対応すべきか」との質問が会場から上がった。これに対してフリードバーグ教授は「中国が今後さらに国力を強めたとしても、アメリカ、日本、韓国、ヨーロッパ、インドなど自由主義国家の国力を合わせると中国に勝る。中国は各国の分断をはかるかもしれないが、それに乗らず連携、協力することが重要だ」と答えた。