世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム事務局長は12月15日、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)フォーラム2017の公式サイド・イベント「UHCとユニバーサル・リプロダクティブ・ヘルス・カバレッジ ~女性・若者が直面する課題に挑む~」に登壇し、「ジェンダーの平等」と「思春期の女性が健康に暮らすこと」の重要性を強調した。元エチオピア保健相のテドロス事務局長は2017年7月に、アフリカ人として初めてWHO事務局長に就任。「世界ではまだ、女性がいつ、誰と、子どもを何人産むかを自分で決められない国が多い。児童婚や望まない妊娠も多い」と解決すべき課題を挙げる。
■シスターのせいで自殺?
「ジェンダーの不平等を解決するには、政治的な介入が重要だ。地域や国が主導して政治・経済・社会・文化などの事情に応じて対処する必要がある」。テドロス事務局長はこう力を込める。
ジェンダー平等を実現するためにとりわけ欠かせないのは、家族にとって最も適当な数の子どもを、最も適当な時期に産めるようにする「家族計画」の推進だ。イベントに登壇した国際家族計画連盟(IPPF)のルシアン・クアク・アフリカ地域事務局長も「家族計画のためには『避妊具へのアクセス』『妊娠中絶』『包括的性教育』の3つが必要。だがアフリカではまだ文化的な障壁がある」と話す。
ルシアン氏が例として示したのが、カトリック教会が避妊や妊娠中絶を認めないことから起きた悲劇だ。同氏の出身国コートジボワールで起きたクーデーターの直後、ある女性が性的虐待を受けて妊娠してしまった。カトリックのシスターに相談したところ、「中絶してはいけない」と言われ、絶望した女性は自殺した。自殺には至らなくても、表立って中絶できないため裏社会で中絶するため、女性にとって命のリスクはとてつもなく高い。
ルシアン氏は「アフリカではどの国も法律で中絶を禁止していない。だが文化的に受け入れられない場合がある。価値観を押し付けてはいけないが、地域ごとの文化と折り合いをつける必要がある」と難しさを語る。
■若者が多い社会が良いのか?
日本の社会問題としてテドロスWHO事務局長が言及したのは高齢化だ。
「若者の数が多いことは、教育、ヘルスケアをきちんとすれば社会にとってボーナスになる。だが逆に、暴力の多発など社会にとって爆弾になる可能性もある。若者が多い社会が良いとは限らない。高齢化も同じ。対処に失敗すると社会に悪影響を及ぼす『シルバー津波』になるが、うまく対処すれば社会にとってメリットとなる」(テドロス事務局長)
イベントには、自民党の国際保健医療戦略特命委員会委員長を務める武見敬三参議院議員も登壇。「日本の高齢化は若い人の活力の問題にもつながる」と言う。
武見氏によると、日本以外のアジア諸国は日本より遅れるものの、急速に高齢化が進んでいく。国連と国立社会保障・人口問題研究所のデータでは、韓国、シンガポール、タイ、中国は2000年ごろ~2020年ごろの約20年で65歳以上の人口が全体の7~14%になる。日本は1970~1994年の24年、フランスは1864~1979年の115年かかっているから、かなりのハイペースだ。スリランカ、ベトナム、インド、インドネシアでも少し遅れて高齢化が始まる見通しだ。
安倍政権は、2017年から外国人の技能実習制度に介護職を追加した。これは日本の介護職員不足に対応するためだけではなく、アジア全体の介護を視野に入れた構想と武見氏は説明する。「5年間の実習を終えて帰るころには、自分の国でも高齢化が始まっているだろう。その時に日本で身につけた介護技術を生かすことができる」と、実習生にとってのメリットを強調する。
武見氏はまた、病院や介護施設をたくさん作り、高齢化に対応しようとした日本の政策を「失敗だった」と指摘。「現在の日本の方針は在宅での医療・介護の提供を進めることだ。アジアの国々は、日本の失敗から学び、まだ家族の機能が残っているうちに在宅医療、在宅介護を強化すべき。高齢化対策の成功例、失敗例を他の国に生かせるようにするのが日本のこれからの役割だ」と持論を展開した。
イベントは、国連人口基金(UNFPA)、国際家族計画連盟(IPPF)、公益財団法人ジョイセフが主催したもの。イベントではUNFPAの佐藤摩利子東京事務所長とジョイセフの石井澄江理事長がファシリテーターを務めた。