革新的なテクノロジーを途上国に届ける活動をする一般社団法人コペルニク・ジャパン(東京・港)はこのほど、米J.P.モルガンが協賛した「日本の中小企業のアジア進出プログラム」の報告会を開いた。このプログラムでコペルニクは、参加した日本の中小企業を対象にインドネシアの商習慣について勉強会を開き、企業の考えや目標を聞き取りした後、インドネシアでの訪問先を選んでアポを取り、訪問先までアテンドする。中村俊裕コペルニク共同創設者兼CEO(最高経営責任者)は「日本の中小企業がもつ技術をインドネシアの人々の生活向上に役立てたい」と意義を語る。
■バイクで充電!
コペルニクが進出を支援した企業のひとつが、途上国の電力問題を解決しようとするエクスチャージ(シンガポール)だ。同社の澤幡知晴代表は2017年10月末から5日間、コペルニクのスタッフとともに、インドネシアの地を初めて踏んだ。訪問したのは首都ジャカルタと、東ヌサトゥンガラ州(ティモール島西部)の未電化地域だ。
エクスチャージは2014年に、ソフトウェアエンジニアだった澤幡氏が創業したベンチャー企業。バイクや自動車で発電した余剰電力を電池に充電するチャージャー(ケーブルみたいな形状)をインドで作って、バングラデシュやベナンで売る。インドネシアでの販売はまだない。
澤幡氏の今回の訪問は、同社の製品に対するにニーズがインドネシアであるかどうかを調べること。ジャカルタのバイクタクシー運転手20人にヒアリングしたところ、多くの運転手から「使いたいとの声が聞けた」(澤幡氏)という。
ジャカルタではUberのバイク版のようなバイクタクシー配車アプリ「Go-Jek」が大人気だ。バイクタクシーの運転手は通常、携帯電話で顧客からの配車依頼を受け付ける。ただ6時間ぐらいで携帯電話の電池がなくなってしまうと、いったん家に帰り、充電するしかない。運転手らが現在使っているモバイルバッテリーは数時間しかもたないうえに、2~3カ月で壊れるという。エクスチャージのチャージャーを使い、バイクの余剰電力で携帯電話を充電できるようになると、営業時間が延び、収入アップが期待できる。
澤幡氏は「チャージャーの値段は10ドル(約1130円)前後になる予定。中国製の安い製品よりも耐久性があって5~10年使える。長い目で見ると得だと理解してもらえた」と話す。チャージャーの生産拠点であるインドからインドネシアに製品を輸出するための手続きの確認を終え、販売準備中だ。
東ヌサトゥンガラ州の未電化地域でも、同社のチャージャーへのニーズは高かった。理由は、雨が降っても、夜でもバイクを使えば電気をためられるからだ。東ヌサトゥンガラ州ではバイクは庶民の足となっている。
東ヌサトゥンガラ州の村には、地元のNGOが配った太陽光発電システムがある。「太陽光発電システムから電池を取り外して、バイクでチャージできないか」と村長から提案され、澤幡氏は調べてみた。すると充電可能なことがわかった。「エクスチャージのチャージャーと冷蔵庫・テレビを動かせる大容量の電池を組み合わせれば、村人の生活は良くなる。いつでも電気が使えるようになることで、さまざまなビジネスの可能性も出てくる」と澤幡氏は言う。
■受注が決まった
「インドネシア人においしいコメを食べてほしい」。こう話すのは、農業機器メーカーのカンリウ工業(長野・塩尻)の矢口秀之取締役営業本部長。インドネシアは世界有数のコメ消費国だ。カンリウ工業は長粒米に対応する精米機を開発したことから、この製品のインドネシアへの売り込みを目指している。
矢口氏が訪問したのは、インドネシアのコメどころである中部ジャワ州クラテン県と、ジョグジャカルタ市だ。クラテン県で聞き取りした結果わかったのは、地元の農家の年収は約14万円で、機械のレンタル費用や人件費を引くと利益は年間10万円を切ること。「数万~数十万円する精米機を家庭で買ってもらうのは難しい。村の精米所で導入してもらうことを検討したい」と矢口氏は語る。
ジョグジャカルタでは、同社が以前から商談を進めていた精米機販売代理店キオスクベラス社を訪れた。その場で他のメーカーの精米機と比較テストをし、速く精米できて、コメが砕けにくいという性能の良さを高く評価してもらえたという。その結果、キオスクベラス社と特約店契約を結び、2017年度中に受注できる予定だ。
コペルニクの進出サポートについて矢口氏は「訪問先がこちらのニーズとドンピシャだった。コペルニクの現地スタッフがこちらの聞きたいことを理解して、訪問先に伝えておいてくれたので、スムーズに聞き取りできた」と評価する。
■教材でジャカルタ進出
eラーニングシステムでジャカルタ進出を狙うのは、eラーニング用の教材を制作する会社すららネット(東京・千代田)だ。湯野川孝彦社長はジャカルタで、私立の学校3校、富裕層に家庭教師を派遣する会社1社、貧困層に教育資金を貸すマイクロファイナンス機関2社を訪問した。すららネットはこれまで、日本、スリランカ、インドネシアの学校や塾にeラーニングサービスを提供してきた。
すららネットは2015年4月~2017年11月、国際協力機構(JICA)の支援スキーム(助成金を出す)のひとつ「中小企業海外展開支援事業(普及・実証事業)」を使い、インドネシア・バンドンの小学校でeラーニング教材を提供してきた。現在は、ビジネスとして収益をあげるため、市場が大きく富裕層の多いジャカルタ進出を狙う。
湯野川氏は「訪問した6カ所すべて、前向きな営業案件となった。うち3件は特に有望と認識している。地域で1校でも導入してくれれば、子どもの成績を飛躍的に上げられるサービスなので、他の学校にも容易に広げられる。今回の訪問でジャカルタ進出の足がかりができた」と話す。
■8社がビジネス開拓
今回のプログラムは、J.P.モルガンの協賛でコペルニク・ジャパンが2016年1月から実施するもの。これまでに日本の中小企業20社が参加し、うち8社がインドネシアへ渡航、ビジネスを開拓した。J.P.モルガンからの助成金は中小企業向けの研修にかかる人件費や渡航費の一部、第三者評価の費用に充てられる。
コペルニク・ジャパンは、インドネシアに本部を置くコペルニクの日本法人。共同創設者の中村氏はマッキンゼー東京支社の経営コンサルタントとして活躍した後、約10年にわたって国連機関でガバナンス改革、平和構築、自然災害後の復興などに従事した。2010年2月にポーランド人のエヴァ・ヴォイコフスカ氏とともにコペルニクを創設した。
コペルニクはインドネシアでソーラーライトや浄水器など、社会問題の解決につながるテクノロジー製品を貧困層に届ける活動に力を入れてきた。中小企業のアジア進出プロジェクトは、この活動から得た知識や現地ネットワークを中小企業のインドネシア進出に生かそうというものだ。