カンボジアのローカル市場で出回る金は「イタリア製」なのか? 店員の言い分を考えてみた

シェムリアップのプサー・ルー(ルー市場)の貴金属アクセサリーショップ「ティーダ」。中央にいる女性店員はナイイェンさん(2018年3月27日撮影)

カンボジア・シェムリアップ最大のローカル市場プサー・ルーの中に、ジュエリーショップ「ティーダ」がある。「この店の金製品の多くはイタリア製だ」と店員のナイイェンさん(40代)は自慢げに語るが、貿易統計を調べてみると、イタリアからカンボジアに輸入される宝石はほぼゼロ。シェムリアップの中心部にあるアンコールパールホテルのカンボジア人従業員のニモルさんは「日本人観光客に売りたいがために、イタリア製とうそをついたのかも」と考える。

ティーダは、プサー・ルーの同じ区画のなかに20以上立ち並ぶジュエリーショップの一つ。金や銀などでできたネックレス、ブレスレット、イアリングなどのアクセサリーを扱う。客層は主にカンボジア人女性だ。創業して7年。「売り上げや客数はわからないけど、いつも繁盛している」とナイイェンさんは話す。

この店の金製品は純度30~50%。主な価格帯は48~162ドル(5000~1万7000円)だ。「価格帯が広いから、お金持ちでなくとも安いアクセサリーを買いに来る」とナイイェンさん。ちなみにカンボジアにはダムロン、チー、ホン、リーという4種類の重さを計る独特の単位がある。

カンボジア人にとって金は身近な存在だ。クメール正月(2018年は4月13~15日)やお盆などの大きなイベントがあるときにカンボジア人は気軽に金のアクセサリーを買う。自分の子どもへプレゼントすることもある。金を身に着けるのはクメール正月や結婚式、パーティーなど。女性はカラフルな衣装とともに身にまとう。

問題は、カンボジア人の生活に欠かせない金がどこ製かということ。ナイイェンさんによれば、ティーダが扱う高価格の金のアクササリーは多くがイタリア製。これ以外にもベトナム製とカンボジア製がある。ところが経済複雑性観測所(OEC)によれば、カンボジアに輸出されたイタリア製の宝石はほぼゼロ。カンボジアはまた、金の輸入の約8割をタイから、残りの約2割をシンガポールから輸入している。

「イタリア製のアクセサリーはプサー・ルーでも売られていると思う。けれども(記者が)外国人ということもあって、イタリア製という言葉を出して、騙して買わせようとした可能性もあるのでは」(ニモルさん)。真相は闇の中だが、ただ一つ言えるのはカンボジア製の金アクセサリーは出回っていないことかもしれない。