ファンデーションを使わないのはなぜ? “カンボジア流メイク” のこだわりは「眉」と「唇」!

カンボジア・シェムリアップの庶民の市場「プサー・ルー」で働くカンボジア人女性。赤い口紅と、濃い眉が印象的だ

アンコールワットの街カンボジア・シェムリアップの女性はファンデーションをしない――。カンボジア人女性が手放せないメイク道具といえば、アイブローペンシル(眉を整えるための道具)と口紅だ。ノーファンデーションというシンプルなメイク法が、実はカンボジアならではの「汗に負けないナチュラルな美しさ」を作り出している。

最高気温36度の3月のシェムリアップでは汗で肌がべたつき、ファンデーションやチーク、アイライナーなどの化粧が崩れてしまう。カンボジアを訪れた日本人女性にとってこれは大きな悩みだ。そこでカンボジア人女性ならではのメイク法を探ってみたところ、日本とやり方が大きく違うことがわかった。

“カンボジア流メイク”の最大の特徴は、ファンデーションを使わないこと。その理由は、ファンデーションをしてもすぐに汗で流れてしまうし、ファンデーションと汗が混ざることで本来のファンデーションの色より濃い肌の色になってしまうからだ。

シェムリアップ屈指のトレンディなカフェ「ブラウンコーヒー」で働くおしゃれな女性たちでさえ、メイクの必須アイテムであるファンデーションをもっていない。ブラウンコーヒー・シェムリアップ一号店で話を聞いた女性従業員6人のうち、ファンデーションを使っている女性はゼロ。シェムリアップ最大の市場プサー・ルーにある衣服店のスタッフ、ヒエン・ラタナクさん(34)も「ファンデーションは汗で崩れやすいから使わない。清潔感をキープするためには素肌のほうがいい」と言い切る。

日本人女性にとってファンデーションなしのメイクはありえない。だがカンボジア人女性にとっては、ノーファンデーションメイクが常識。さらにいえば、ノーファンデーションメイクには素肌を美しくする効果がある。その理由はこうだ。

顔には無数の汗腺があり、汗が出やすく、毛穴が開きやすい。発汗する際にファンデーションが毛穴に入ってしまうと、汗とファンデーションの油が交ざり、にきびをはじめ肌荒れの原因になる。ファンデーションを使わないカンボジア流メイク法は、メイクの崩れを防ぐだけでなく、もう一つの効果として素肌も美しくする――つまり一石二鳥のメイク法なのだ。

ただカンボジア流メイクにも当然、こだわりはある。ファンデーションをしない代わりに、汗の影響を受けにくい「眉」と「唇」を魅せることだ。眉はアイブロウペンシルで形を整えて、濃く描く。また、唇には赤やオレンジ、ピンクなどの明るい色でマットタイプ(ツヤのない、発色が良い)の口紅を使うのがカンボジア流。鮮やかな色を使うことで顔の印象が華やかになる。

だがカンボジア流メイクがこの先も、今のスタイルのままなのかどうかは疑問だ。カンボジアの気候と似ている隣国タイ(バンコク)の女性たちはすでに、ファンデーションを使ったメイクをしている。プサー・ルーで化粧品を毎月買うというカンボジア人のソペアさん(20)は「収入が上がって、メイクに費やすお金が増えれば、汗に強いファンデーションを使ってみたい」と話す。

カンボジアの1人当たりの国内総生産(GDP)は、2005年の471ドル(約5万200円)から2015年には1140ドル(約12万1500円)に2.5倍近くに増えた。国際通貨基金(IMF)の予測によれば、2020年には1609ドル(約17万1500円)に達する。カンボジア経済がタイのレベル(1人当たりGDP約6000ドル=約63万9000円)にもう少し近づいたとき、カンボジア流メイクのかたちは変わっているのかもしれない。