国内総生産(GDP)成長率が2011年以降7%前後と経済発展真っただ中のカンボジアの観光都市シェムリアップで、バーガーキングやケンタッキーフライドチキンなどのファーストフード店が若者の憧れの的となっている。ただバーガーキングのハンバーガーの価格は4.25ドル(約450円)からと、現地の物価と比べるとやたら高い。シェムリアップでファーストフードが普及するのはいつになるのか。
2015年にオープンしたバーガーキング・シェムリアップ一号店。2階建てで客席は50席以上ある。取材した金曜日の夜(2018年3月30日)は、欧米系の観光客やカンボジア人など20人ほどの客で賑わっていた。バーガーキングのことを地元の高校生は愛情を込めて「キングバーガー」と呼ぶ。
バーガーキング・シェムリアップ一号店のメニューを見ると、値段が最も安いのはフィッシュバーガー。4.25ドル(約450円)だ。バーガーキング・ジャパン(東京・渋谷)のウェブサイトによれば、日本ではフィッシュバーガーは340円で売られており、カンボジアのほうが1.3倍も高い。カンボジアと日本の2016年の1人あたり国民総所得(GNI)はそれぞれ1277ドル(約13万7000円)、3万8882ドル(約417万2000円)で、その差が30倍もあることを考えると、カンボジアのハンバーガーの値段が異常に高いことがわかる。
シェムリアップ市内の高校に通うダリー・チャンペイさん(17)は「キングバーガー(バーガーキングのこと)のハンバーガーは大好き。学校でもキングバーガーのことはみんな知っている。だけど私は人生で1回しか食べたことがない。だって値段が高いから」と話す。彼女の家族(5人)の食費は1日で5ドル(約536円)程度。ハンバーガー1個分だ。
村に行けば、ファーストフードを食べる機会はさらに少なくなる。シェムリアップの中心街から車で30分離れた農村で、手作りのココナツケーキを売り歩くアリーさん(74)は「1日の利益はだいたい2ドル(約210円)。そのうち1ドル(約100円)を2人の孫の食事代にする。だからハンバーガーなんて高級品は食べたことがない」と話す。ただハンバーガーの存在は知っていた。
値段の高さ以外にも、ファーストフードが広まらない理由はある。シェムリアップの若者たちの間では、友だち同士で外食する習慣がないことだ。市内の女子高生4人は「友だちと一緒にご飯を食べに行くこと自体めったにない」と口をそろえる。「誕生日も外でごちそうを食べたりはしない」「ご飯は家で食べる。外食はほぼしたことない」。こう話す彼女たちにとって、家で食べられないハンバーガーは憧れではあっても、身近な食べ物とはいえなさそうだ。
ただ朗報もある。シェムリアップの中心街である6号線沿いには2018年6月に、大型ショッピングモール「The Heritage Walk」がオープンする予定だ。そこには、ロッテリアやドミノピザなどのファーストフード店が入居するという。ロッテリアのハンバーガーの日本での値段は180円。バーガーキングのハンバーガー(同250円)の6割ちょっとと安いため、シェムリアップでも安く売られる可能性もある。
ちなみにロッテリアは2018年までに、アジアのマルチフランチャイズ外食企業のトップ3入りを目指している。2013年4月に世界の大手外食チェーンで初めてミャンマーに出店したほか、ベトナム、中国、インドネシアなどアジアを中心に海外店舗を展開する。
ファーストフードの値段が下がれば、シェムリアップの普通の高校生たちも、特別な日にはハンバーガーを食べられるようになるかもしれない。経済発展を背景に西洋の食文化が入ってきつつあるシェムリアップで、家族以外とはほとんど外食しない習慣も含め、庶民の生活スタイルがどう変わっていくのか注目だ。