米アウトドアアパレル大手、パタゴニアの日本支社の辻井隆行支社長が5月12日、東京・広尾の聖心女子大で開かれたエシカルフェスタ(主催:エシカル協会)で講演した。テーマは、世界的に人気のファストファッションの裏に潜む“2つの闇”。「消費者一人ひとりが何を買うかの選択が、地球と労働者の運命を左右する」と訴えた。
辻井さんがまず指摘したのは、服の大量生産・大量廃棄が及ぼす環境問題だ。経産省によると、日本で生産・輸入される服は年間およそ30億着。しかし消費者の手に渡るのはその半分以下のおよそ14億着。残りのおよそ16億着は処分されるという。消費者が買った服の8割も、まだ着られる状態で捨てられる。辻井さんは「資源あってのアパレル。このままではアパレル業界は崩壊する」と懸念する。
辻井さんがもうひとつ問題視するのは、ファストファッションが普及し、大量生産・大量消費が進むにつれ、縫製工場の労働者たちの暮らしが貧しくなっていることだ。とりわけ搾取されるのは、法規制が弱いバングラデシュをはじめとする途上国の労働者。賃金が低く、またひどい環境で働かされるため、事故や病気で命を落とす人も後を絶たない。その象徴となったのは、ダッカ近郊で2013年に起きた、縫製工場が多く入る8階建てビル「ラナプラザ」の崩落だ。1100人以上が死亡した。
パタゴニアが描くゴールは「アパレル業界を持続可能」にすることだ。同社はすでに、アウトドアウェアで使うコットンはすべて化学薬品を一切使わないオーガニックに切り替えたほか、独自の移民労働者雇用水準を設けるなど労働者の保護にも力を注ぐ。辻井さんは「消費者がどのアパレルを選ぶかが地球と労働者を救う。これこそがエシカル消費だ」と訴える。
社会貢献に意欲のある女性たちの間では、エシカル消費が注目を集めている。だが消費者庁が2016年に実施した調査によると、エシカル消費の認知度はわずか6%というのが実情。イベント主催者であるエシカル協会の末吉里花代表理事は「エシカル消費を少しでも多くの人に認知してもらえるよう、今後も発信していきたい」と語った。