「作る人も買う人もハッピーにするのがエシカルファッション」、ユナイテッドアローズの栗野宏文上級顧問が語る

横浜市の赤レンガ倉庫で開かれた「パレスチナ・フェスタ2018」のセミナーに、ユナイテッドアローズの栗野宏文上級顧問が登壇。エシカルファッションの可能性を呼びかけた。着ているジャケットはブルキナファソの織物でできたTÉGÊブランド

アフリカの女性職人がつくる織物やアクセサリなどを扱うエシカル(倫理的)ブランド「TÉGÊ UNITED ARROWS」を2013年に立ち上げたユナイテッドアローズの栗野宏文上級顧問はこのほど、横浜市内で開かれた「パレスチナ・フェスタ2018」のセミナーに登壇した。このなかで「エシカルファッションが、大量生産・大量廃棄や労働搾取をなくし、作る人も買う人もハッピーにする本来のファッションを取り戻す」と熱く語った。

■安く買って捨てるのがトレンドでいいのか?

「いま、衣服がトレンド(流行)であると勘違いされている。ここ10年で『ファストファッション』が全世界に広がった。非常に安価。しかし長くもたない衣類をどんどん買っては捨てる状況が起きている」。栗野さんはこう警鐘を鳴らす。

消費者にとっては好都合のファストファッションだが、縫製現場では深刻な問題を生む。「値段を安くするには、アジアやアフリカの賃金の安い工場で作る。作り手の労働条件は保障されない。生分解されない石油由来の衣類を余るほど作っては大量に廃棄する。ファッションに40年かかわってきたが、この状況は健全とは言えない」(栗野さん)

2013年、世界のファストファッション業界を揺るがす大きな事故が起きた。バングラデシュ・ダッカ近郊にある、縫製工場が多数入っていた8階建てビル「ラナプラザ」の崩壊だ。1100人以上が命を落とした。

ラナプラザの工場は、日本や欧米の34のアパレルブランド製品を作っていた。この大参事をきっかけに、長時間・低賃金労働、化学物質による環境汚染や健康被害など、ファストファッションの不都合な真実が明るみとなった。

服に対して本当のコストを払っているのは誰か。ドキュメンタリー映画の「ザ・トゥルー・コスト~ファストファッション 真の代償~」(2015年、米国)や「スローイング・ダウン・ファストファッション」(2016年、英国)も、大量生産・大量消費・大量廃棄が加速することで人や環境への負荷が増す実態を告発した。

■国連とのコラボブランドが誕生!

ファストファッションの服を作る大工場とは対照的に、ブルキナファソやケニアで出会った職人の手仕事には「健全性が見られる」と栗野さんは言う。「大工場では人々は自分の時間を切り売りする単純労働者となってしまう。手仕事はその技術を子孫や親せきへ伝承するカルチャーだ。土地に根差した技術への誇りは、コミュニティのアイデンティティを長く守ってきた」

栗野さん率いるユナイテッドアローズは2013年に、途上国の輸出振興を技術的に支援する国連機関「国際貿易センター(ITC)」が進めるプロジェクト「エシカル・ファッション イニシアチブ(EFI)」に参加。日本企業として初めてパートナー企業となった。2014年には、EFIとコラボしたエシカルブランド「TÉGÊ(テゲ)」をスタートさせた。テゲとは西アフリカのバンバル語で「手」を意味する。

TÉGÊがこれまでに製品化したのは、ブルキナファソの手織物からつくるジャケット、ケニアのマサイ族女性たちのビーズアクセサリや色鮮やかなクラッチバッグなど。女性の職人に縫製技術を教えたり、仕事を定期的に発注したりすることで収入向上をサポートする。将来は、事業をコミュニティへ引き継ぐという。

■チャリティでは大量生産・廃棄は変えられない

エシカルファッションが向かうべき方向について栗野さんは「チャリティ(慈善)という一過性ではなく、持続可能な仕事として行われるべきだ。“NOT CHARITY, JUST WORK”(チャリティではなく、仕事をしよう)。これはITC(国際貿易センター)のポリシーでもあり、大いに共感する」と語る。かわいそうだからではなく、確かな品質のものを買いたいから買う。「これなら大量生産・大量廃棄で行き詰った今のシステムとは違うところに行けるだろう」(栗野さん)

小売りの現場に30年いて、消費者の「買う理由」がどんどん変わるのを感じてきた栗野さん。「今はエシカル(倫理的)であることが、買う基準のひとつになっている。ファッションは本来みんなが平等に楽しめるもの。作る人も買う人も、そして環境もハッピーにする本来のファッションを取り戻そう」とセミナー参加者に呼びかけた。