【書評】中学生でも児童労働のひどい実態がわかる本! 「わたし8歳、職業、家事使用人。」

中学生でも読める児童労働の本がある。東京外国語大学の日下部尚徳講師が書いた「わたし8歳、職業、家事使用人。―世界の児童労働者1億5200万人の1人―」(合同出版社、2018年10月30日発売、1400円+税)だ。世界屈指の“児童労働大国”であるバングラデシュでは630万人の子どもが生きるために、セクハラ・パワハラを受けながら働く。世界の現実を知ってもらいたい中学生へのクリスマスプレゼントにも最適な一冊だ。

■16時間労働・不正・セックスワーカー    

この本には家事使用人(メイド)として働く3人の少女が登場する。

1人目が11歳のルビナちゃん。8歳から家事使用人として、雇い主の家の掃除や洗濯、買い物、食事の支度をひとりでこなす。1日の労働時間は早朝から深夜まで16時間以上。学校には通えない。ルビナちゃんの心身の健康はもちろん、どんな大人に成長していくのかが心配だ。

2人目は17歳のジュマルさん。彼女もまた家事使用人として雇われている。だが口約束による契約のために給料はきちんと払われていない。ジュマルさんは読み書き、計算ができないため、雇い主が給料をごまかしていても不正に気づけない。低賃金での労働を受け入れざるを得ないのが実情だ。

3人目は、セックスワーカーとして生計を立てる16歳のベグンさん。彼女は、13歳の時に雇い主から性的いやがらせや暴力を受け、耐えきれずに村へ戻った。ところが結婚前の女の子の純潔を重視するバングラデシュの農村に彼女の居場所はなかった。家族や親せきから見放され、教育を受けていない彼女はセックスワーカーとして働く道しか残されていなかった。帰る場所のない彼女は大都市チッタゴンの路上で孤独に暮らす。

■親心につけ込むブローカーも

最悪な労働環境なのに、バングラデシュの女の子が家事使用人として働く最大の理由は農村の貧困だ。大家族を養うために、子どもが働かなくては食べていけないという現実は児童労働に直結している。

男性の社会的地位が高いバングラデシュでは、結婚する際に女性が男性へお金や物品、家畜などを贈る「ダウリ」という習慣がある。この資金を貯めるために、女性は幼いころから働く。この伝統も児童労働を助長させる。

また貧困に苦しむ親の立場からすると、家事使用人として娘が働ければ、今より良い生活ができるのではないかという淡い期待もある。その期待につけ込み、雇用条件をはっきりさせないまま口約束で契約する悪徳斡旋業者(ブローカー)もいる。バングラデシュの農村の女の子たちは、雇い主だけでなく、斡旋業者からも搾取の対象となっているのだ。

■幼い女の子を雇う6つの理由

バングラデシュで家事使用人として働く子どもの数は42万人。この本によると、雇い主が幼い子どもを好んで選ぶのには6つの理由があるという。

①雇用契約のあいまいさを利用し、安く雇えること

②世間体をとりつくろうための衣服や化粧品を与えずに済むこと

③判断能力が十分でないため雇い主に従順になりやすいこと

④プライバシーを気にすることなく、(幼い子どもは体が小さいので)わずかなスペースで生活できること

⑤雇用家族の男性の恋愛対象にならないこと

⑥大家族で育ってきたため、幼くても子守りができること

この本では主にバングラデシュの事例を取り上げているが、国際労働機関(ILO)によると、世界では1億5200万人が児童労働に従事している。世界の子どもの10人に1人が幼いころから過酷な労働を強いられている現実。日本でも、子役の長時間労働が問題視されるなど他人事ではない。

本に登場する子どもたちと同年代の中高生をはじめ、児童労働について学びたい方にはぜひ手にとっていただきたい一冊。知ることこそが、国際協力の、ひいてはグローバル人材になる第一歩になる。

 

【著者略歴:日下部尚徳(くさかべ・なおのり)
東京外国語大学講師。岐阜女子大学南アジア研究センター研究員、文京学院大学助教、大妻女子大学専任講師などを経て、現職。高校生のころからシャプラニールのユースボランティアに参加し、2012年から5年間同会の理事を務める。バングラデシュの社会経済動向や、途上国の貧困、災害問題に関する調査、研究に従事。