ファッションブランド「ユニクロ」のインドネシア西ジャワ州にある下請け業者ジャバ・ガーミンド(Jaba Garmindo)の元従業員らが、退職金の支払いを求める問題が暗礁に乗り上げている。ユニクロを展開するファーストリテイリングのCSR担当者は支払い拒否を明言。同社は今後、交渉のテーブルに着かない方針だという。
ジャバ・ガーミンドは1992年の創業。アディダスやナイキなどのブランドと契約し、5000人の労働者を擁する大規模な縫製工場だった。テディ・プトラ元労働組合委員長によると、事情が一変したのはファーストリテイリングと2012年に受託生産契約を交わしてから。従業員の労働環境が悪化しただけでなく、納期の遅れなどを理由に契約が解除され、ジャバ・ガーミンドは2015年4月に倒産した。組合員2000人を含む全従業員は退職金や補償金も得られず失業した。
元従業員らは、ジャバ・ガーミンドが倒産してからいままでの3年間、未払いの退職金などの支払いを要求し続けてきた。オランダに本部を置く、衣料労働者の権利を守る世界ネットワーク「クリーン・クローズ・キャンペーン(CCC)」のメンバーとともに10月に来日し、都内各地で抗議行動を展開。「柳井正(ファーストリテイリングの会長兼社長)、あなたの富のために働いた労働者に支払いをしてください」と書いた横断幕を掲げ、六本木にある同社東京本部の前で道行く人に訴えた。
テディ・プトラ元労働組合委員長は、ファーストリテイリングとの契約が始まると工場での労働環境が悪化したと訴える。「短期間に過酷な生産量を要求された。解決のために私が労働組合を設立すると、遠隔地へ異動させられ、その後、解雇された」と憤る。インドネシアの労働法は、他のアジア諸国と比べて労働者優位で、労働組合の設立や女性の産前産後休暇なども認められるはずだった。
ジャバ・ガーミンドの創業以来23年にわたって勤務した元従業員のワーミさんが訴えるのは、ファーストリテイリングとの契約後に起きた長時間労働や賃金の未払いに加え、休暇などの雇用契約違反だ。「夫が倒れて入院したとき、工場はユニクロの生産計画に間に合わないからと私に休暇を許さなかった。夫は誰にも看取られずに亡くなった」と涙を流す。
シングルマザーとなったワーミさんは、子どもを親せきに預けて街で日雇い労働し、夜は屋台で働く毎日を送る。「ユニクロには納得がいかない。こういう企業がなくなり、労働者が正当な権利を行使できるよう支援してほしい」と家族がバラバラになったと悲しみと怒りを語る。
サプライチェーンの下請け工場で起きるこうした補償問題では、これまでナイキやインディテックス(「ZARA」ブランドを展開する企業)、アディダスなどが支払いに応じた実績がある。CCCはジャバ・ガーミンドの元従業員にも補償を求める正当性があるとし、ユニクロキャンペーンをヨーロッパとアジア各地で実施。日本の消費者にも賛同を訴える。
CCCに加盟する「WRCインドネシア」のムチャマド・ダリズマン氏は、サプライチェーンのシステムについて「Tシャツ1枚の利潤のうち、労働者にわたるのはその1%にすぎない」と説明。「ファッションブランドの多くは生産工場をもっていない。貧困ライン以下の女性たちを安価に雇う工場と委託契約を結ぶ。さらに安い国や地域が見つかると契約先を変えてしまう。“誰が利潤をとり、誰がリスクをとるのか”の問題だ」と、国境を超えたパワーハラスメントだと指摘する。