「ウガンダの元子ども兵は、ウガンダ政府軍から救出された後も、“死んだ魚のような目”をしている」。こう語るのは、ウガンダの反政府ゲリラ「神の抵抗軍(LRA)」に誘拐された子どもの取材を2000年から続けるジャーナリスト下村靖樹さんだ。
■死んでも代わりの子どもがいる
ウガンダの子どもが死んだ魚のような目をしているのは、子ども兵時代に味わった壮絶な経験がトラウマになっているからだ。LRAに誘拐された子どもは、大人の兵士から体罰を受けるだけではない。子ども同士でお互いを攻撃することもあるという。兵士になると、少人数のグループに分けられ、逃走したり、反乱を起こしたりしないか、をお互いに監視させる。密告すれば、大人の兵士からご褒美をもらえる。また、自分の立場を優位にするために他の子どもを攻撃することもある。「お互いを疑心暗鬼にして、心を壊していく残酷さがある」と下村さんは語る。
洗脳の浅い子どもには、より過酷な仕打ちが待っている。地雷のある場所を歩かされ、地雷探知機なしで地雷がどこに埋まっているか確かめてこい、と命じられる。また、食べ物が配られる順番は最後に回されるという。
「『洗脳が浅い子どもは死んでも構わない。また別の子どもを誘拐すればいい。代わりの子ども兵はいくらでもいる』とLRAは考えている。非道極まりない」。下村さんはこう怒りをあらわにする。
ただ洗脳が深い子どもも決して待遇が良いわけではない。半袖、半ズボン、裸足で、獰猛な動物や毒蛇が生息するジャングルや地雷原に入っていき、ウガンダ政府軍と戦う。危険と隣り合わせであることは変わらない。
少女の子ども兵の場合、強制的に兵士の妻にさせられるのが大半だ。小学生の年齢で子どもを生まされることも。出産に必要な環境も整っていないことから、母子ともに命を落とすこともざらだ。出産後も食料が足りないため餓死する乳児も多い。
下村さんによると、洗脳が難しい15歳以上の子どもは誘拐されない。だがLRAは、子ども兵に、大人の村人の体の一部を切断するよう命じる。市民に恐怖を植え付けるためだ。鼻を切り取られた女性は「こんな目にあわせた子ども兵を私は許さない。子ども兵は被害者だとわかっているけど、それでも許せない」と下村さんに語ったという。
誘拐された子どもが洗脳され、被害者から加害者になる。これがウガンダの子ども兵の実情だ。
■元こども兵は“汚れた存在”
子ども兵の問題を解決するにはどうすべきか。子ども兵の救出にウガンダ政府軍が乗り出すのは簡単ではない。なぜなら子ども兵は銃で攻撃してくるからだ。「銃撃戦になり、銃弾が子ども兵に当たって、死んだり、けがを負ったりすることもある」と下村さんは説明する。
たとえ救出されても、子どもたちの精神はすでに壊れている。下村さんがウガンダで出会った少女は、自分の子どもを抱いているのに、目に狂気が宿っていた。「傷の深さは計り知れない」と懸念する。
ウガンダ政府やNGOが提供するリハビリを受けても、精神はそう簡単には正常に戻らない。犯罪に手を染めるケースは後を絶たず、高校や大学に進学する割合も少ない。「元子ども兵は“汚れた存在”としてウガンダ社会から差別的な扱いを受ける。だから生計を立てようとすると、政府軍に入るか、自分で小さな店を始めるしかない。それ以外の選択肢は少ない」と下村さんは話す。
国際連合と世界銀行によると、LRAはこれまでに6万人の子どもを誘拐、10万人以上を殺してきた。国際的な非難の高まりを受け、子ども兵の数は減っているようだ。ただ国が介入できない一層深いところで強制加入させられているとの見方もある。
LRAは、ウガンダ政府を打倒することを目的に1987年に立ち上がったゲリラ組織だ。ところが現在は市民を殺すだけの犯罪組織と化している。下村さんも「LRAは目的もなく人間狩りをしている。同じ民族のアチョリを殺害し、自分たちに協力しない者はみんな敵とみなしている」と語る。
「こんな状況では『人の命の重さは地球より重い』『人の命の重さは平等』といった言葉は通用しない。でも子どもは未来の宝だ。子どもが子どもらしく生きられる世界を作れるよう、これからもウガンダの子どもたちの実情を多くの人に伝えていきたい」(下村さん)