途上国の貧困層向けのビジネスを展開するアライアンス・フォーラム財団(東京・日本橋)は、藻の一種「スピルリナ」を使ってザンビアの農村部で暮らす子どもの栄養を改善してきた。「スーパーフードの王様」の異名をもつスピルリナはタンパク質やビタミンなどの栄養素を豊富に含む。培養するのに必要なのは水と日光とアルカリ水。特殊な機械は不要だ。
■赤かった髪が黒々と
スピルリナとは、30億年以上も前から生息するアフリカ原産の藻だ。アルカリ水で培養し、ろ過、乾燥という加工プロセスを経て、最終的にパウダー状の食品となる。ザンビアの農村部ではそれをおかゆやパンに混ぜたり、おかずにふりかけて食べたりするのが一般的だ。色は緑。味は薬草のよう。青のりを強くしたにおいがするという。
アライアンス・フォーラム財団がスピルリナに着目するのは、途上国の食生活で不足しがちなビタミンA群、亜鉛やヘム鉄といったミネラルを多く含むためだ。タンパク質含有率も6割以上と高く、必須アミノ酸のほとんどをカバーする。世界には、キヌア、モリンガ、タイガーナッツ、クロレラ、ユーグレナ、アサイーなどスーパーフードは数多くあるが、その中でもスピルリナは「スーパーフードの王様」との呼び声も高い。
アライアンス・フォーラム財団は2012年、スピルリナの有用性を確かめるため、首都ルサカに近いチョングエ郡カナカンタパ村で60人の乳幼児を対象に効果測定を実施した。半分の30人には「10グラムのスピルリナ入りのおかゆ」を、残りの30人には「普通のおかゆ」を8カ月食べてもらった。
その結果わかったのは、スピルリナ入りのおかゆを食べたグループは、そうでないグループと比べて身長と体重が大きくなったこと。アフリカの乳幼児の死因の上位であるマラリアの感染率も低くなった。
スピルリナを食事に取り入れた家庭からは「子どもの肌の調子が良くなった」「赤かった髪(栄養失調だと髪は赤くなる)が黒々してきた」という好意的な声が聞かれる。アライアンス・フォーラム財団途上国事業部のプログラム・オフィサーで栄養士の太田旭さんは「スピルリナがきっかけとなり、食の大切さを知って、自分たちで工夫して健康を守れる家庭が増えたのが嬉しい」と語る。
■20円だから庶民に届く
アライアンス・フォーラム財団がスピルリナに直目するもうひとつの理由は、ザンビアで生産できること。スピルリナの培養に必要なのは、光合成に必要な日光と水、アルカリ水だ。日光と水はザンビアに豊富にある。年間の平均晴天日数は300日以上。またアフリカ4番目の大河であるザンベジ川、ルワングワ川、カフエ川に代表されるように、ザンビアはアフリカで5番目に水資源が豊かな国。スピルリナを培養するのに最高の環境なのだ。
スピルリナの培養には特殊な薬や機器も不要だ。培養水をアルカリ性に保つための試薬は、市販の農業用肥料で代用できる。スピルリナは直径0.1~0.5ミリメートルと他の藻類に比べて大きいため、遠心分離機といった特殊な機械も使わずに済む。フィルターでろ過できる。
また、ザンビアで作り、ザンビアで売る「地産地消のモデル」とすることで、輸送コストも、パッケージコストも、人件費も節約できる。このため安い価格での販売が可能になる。農村部での小売価格(2018年)は1グラム1クワチャ(約10円)。「これはザンビアの庶民(貧困層)でも、1日の推奨量である2グラム(約20円)をまかなえる価格」と太田さんは説明する。
■半数以上が慢性栄養不良
途上国でかねてから問題となっているのが慢性栄養不良だ。タンパク質やビタミン、ミネラルはわずかで、炭水化物一辺倒という食生活の影響で、慢性的な栄養不足に陥る子どもは少なくない。幼少期に慢性栄養不良に陥ると、身長が伸びなかったり、さまざまな病気にかかる率が将来上がったりする。
苦しい空腹に襲われる急性栄養不良と違い、「隠れた飢餓」と呼ばれる慢性栄養不良。国連児童基金(UNICEF)によると、ザンビアの5歳未満児の50%以上が慢性栄養不良。サブサハラ(サハラ砂漠以南の)アフリカの5歳児未満児の低身長の割合も38%(途上国平均は32%)と高い。
アライアンス・フォーラム財団は2020年までに、スピルリナを慢性栄養不良の子どもたちにとどまらず、生活習慣病や美容に悩む富裕層の人たちにも届ける仕組みを作っていく計画だ。