「アフリカのスタートアップ企業は、先進国も含めた世界中の課題を解決する可能性をもつ」。こう語るのは、アフリカの企業への投資に特化する日系ベンチャーキャピタル(VC)、リープフロッグベンチャーズ(本社:東京都)の最高経営責任者(CEO)を務める寺久保拓摩氏だ。インフラ整備が遅れるアフリカだからこそ、先進国の既存サービスとは違う革新的なサービスが生まれているという。
■携帯電話が“住所”に!
アフリカで生まれたサービスの可能性に寺久保氏が注目する理由は、その革新性だ。「郵便や電気などの既存インフラサービスが十分に整備されていないアフリカには、産業革命より先にデジタル革命が来た。アジアとも違う」と寺久保氏は説明する。
リープフロッグベンチャーズの投資先のひとつにケニアのスタートアップ企業TAZテクノロジーズがある。同社が手がけるサービス「Mpost」では、住所の整備が進んでいないケニアで、携帯電話の位置機能を使って“仮想住所”を提供する。2016年に始まり、ユーザーはすでに4万人を超えた。郵便局とも提携する。
Mpostを使えば、年間300ケニアシリング(約320円)を払うだけで、自分の携帯電話を仮想住所として登録できる。実際の配達は、Mpostと郵便局が二人三脚で実施する。郵便物が郵便局に届くと、SMS(ショートメッセージサービス)で受取人に通知がいく。受取人は、最寄りの提携郵便局まで取りに行ってもいいし、Mpostの配達人に自宅(携帯電話の仮想住所)まで届けてもらってもいい。
Mpostの革新性は、土地単位で住所を割り振らないこと。この仕組みを日本に導入すれば、ネットカフェ難民やホームレスの人たちが仮想住所をもてることになる。そうなれば就職活動の際に提出する履歴書に住所を書ける。郵送される面接結果も受け取れる。「先進国の定職につけない人の役にも立つ」と寺久保氏は言う。
Mediosというケニアの別のスタートアップ企業もおもしろい。サービス内容は、アフリカ中のインフルエンサーを集めたネットワーク作りと、インフルエンサーが提供する広告・宣伝サービスだ。インフルエンサーがフェイスブックなどのSNSで発信すれば、テレビをもっていない層にもPRしたい内容が届く。
有名タレントを広告塔として起用し、テレビCMを打つ。そんな広告のあり方とは違ったアプローチだ。寺久保氏によれば、Mediosには、大手レコード会社ユニバーサル・レコードからも協力の打診が舞い込んでいるという。
■アフリカは支援対象ではない
アフリカのスタートアップ企業をサポートするのは、リープフロッグベンチャーズなどのVCだ。資金、経営戦略、他業種の企業との結びつきをVCが提供することで、事業規模の拡大を後押しする。
南アフリカに本社を置くメディア企業Wee Trackerによると、アフリカのスタートアップ企業への投資額は過去4年で3.9倍に増え、2018年には7億3000万ドル(約790億円)となった。2018年の最高調達額は、中古車売買のECサイトを運営する南アフリカのWeBuyCarsの9400万ドル(約101億円)だ。
数あるVCのなかで、リープフロッグベンチャーズがこだわるのは、ひとつの企業を支援するのではなく、スタートアップ企業同士を連携させ、ひとつの産業として一緒に成長させていくことだ。小売・流通分野を例にとると、生産→広告→販売→決済→配送といった一連のバリューチェーンを、投資先となる複数のスタートアップ企業同士をつなげることで作り出す。
リープフロッグベンチャーズはまた、先進国の企業とアフリカのスタートアップ企業の橋渡しもする。機械の導入などは、スタートアップ企業が単独でまかなうよりも、先進国の事業会社の力を借りるほうが効率的だ。日本企業に向けて寺久保氏は「アフリカは支援対象ではない。一緒にビジネスを作っていく相手。むしろ学ぶことも多いはず」と意識変革を促す。