南山大学社会倫理研究所は、「修復的正義による和解を目指して―ルワンダ大虐殺後のNGO活動からの考察―」と題する講演会を名古屋市内で開いた。講師は、ルワンダ・プロテスタント人文社会科学大学(PIASS)の佐々木和之教授。ルワンダ大虐殺から20年、加害者(主にフツ)と被害者(主にツチ)を和解させるNGOのユニークな取り組みを紹介した。
1994年に起きたルワンダ大虐殺では、当時の人口のおよそ1割に当たる80万人がわずか3カ月で殺された。この壮絶な出来事は、20年経ったいまもルワンダ社会に暗い陰を落としている。この問題を解決するにはツチ、フツの和解が絶対に欠かせないが、「加害者が被害者のために家を建てる」プロセスを通じた和解方法が効果をあげているという。
■公益労働刑が「償いの家造り」に発展
両者の和解をサポートするのは、現地で活動するキリスト教プロテスタント系NGOの「REACH 」(Reconciliation Evangelism and Christian Healing)。「償いの家造りプロジェクト」と呼ばれる和解プログラムを推し進めている。このプロジェクトでは、加害者がボランティアとして被害者のために家を建てるが、プロセスのなかで、被害者に罪を告白し、謝罪し、償う。建てた家は「償いの証」となる。
佐々木教授によると、ルワンダ政府は、虐殺を計画・扇動・推進した当時の指導者層に対しては「厳罰(最高で無期懲役)に処する」方針を崩していない。だが、殺人・暴行・傷害などにかかわった一般市民については「罪を認め、司法捜査に協力し、公の場で謝罪すれば、刑期を大幅に軽減し、その代わりに土木工事や住居建設などの公益労働に従事してもらう」政策を採用している。
これを「公益労働刑」と呼ぶ。この刑罰を発展させたのが、REACHの償いの家造りプロジェクトだ。
REACHの活動にかかわってきた佐々木教授は「このプロジェクトのおかけで、加害者と被害者の触れ合いが生まれた。加害者は被害者に心から謝罪し、被害者が加害者を許すという現象が起きている」と驚くほどの効果を指摘する。
■「私はあなたを許します」
講演会のなかで佐々木教授は、ひとりの女性被害者のエピソードを紹介した。この女性は、大虐殺でほおに傷を負い、指も一部欠損した。かつては加害者を憎む気持ちもあったが、加害者に家を建ててもらった後、こう話したという。
「あなた(加害者)が心から謝罪してくれ、また罪を告白してくれたことで、私は心が安らぎました。あなたも心安らかに歩んでください。どうか重荷を降ろしてください。これからは、隣人としてかかわりあっていきましょう。あなたの前に立っている私を怖がらないでください。私はあなたを許します」
この女性が加害者を許すことができたのは、加害者の真摯の謝罪と「償いの家」があったからにほかならない。償いの気持ちをもって加害者が被害者のために家造りをした思いが伝わったのだ。
REACHのスタッフは当初、このプロジェクトを進めていく際、被害者が加害者と接触することで虐殺のトラウマが蘇るのではないか、と心配した。ところが予想に反して被害者は「加害者に私の家を作ってもらいたい。心からの謝罪も受け入れたい」と語ったという。
■“殺すことを強いられた加害者”も被害者
だが加害者はなぜ、被害者に償おうと思ったのか。このきっかけとなったのが、加害者と被害者の双方を対象にREACHが主催する学習会だ。この場で加害者は、被害者らが直面してきた壮絶な体験と苦しみ、加害者への恐れとどう向き合ってきたかを聞く。
学習会はまた、加害者が、被害者に対し、自分が犯した罪を告白し、それを謝罪し、被害者にできる限りの償いをするよう促す。被害者の苦しみを目の当たりにすることで加害者は、“刑罰として仕方なく”ではなく、心からの償いとして家造りをする決意を固めていく。
被害者らは、加害者から涙ながらの謝罪を受けたことで、多くの加害者も虐殺することを強いられた被害者なのだ、と思えるようになる。被害者のひとりは、加害者にこんな言葉をかけた。
「被害者の家族にまだ謝罪していないのなら、彼らを訪ねてください。自分の罪を認め、真実を語り、許しを受けるために一歩踏み出してください。そうすれば許してもらえる。私はすでに、謝罪のために訪ねてきた7人の加害者を許しました」(瀬川義人)