アフリカ南東部のマラウイでは少女の「児童婚」が問題になっている。法的には15歳から結婚が可能となっているが、実際にはそれより若い年齢での結婚も多い。児童婚に備えて、年ごろの少女を「ハイエナ」と呼ばれる男性とセックスをさせ、夜の営みを学ばせることもあるという。この児童婚の問題は少女のHIV感染の拡大、教育の機会の欠如、未成熟な体での出産による妊産婦の死亡といった問題につながっている。3月3日付記事でトロントスターが報じた。
■妊婦の35%は10代
マラウイ南部チテラ村のクリスティーナ・アシマは、15歳ですでに結婚、出産、そして離婚までも経験し、今ひとりで赤ちゃんを育てている。彼女は、両親の離婚が原因で、まだ子どもながらに幼いきょうだいの面倒を見なければならなかった。生活は貧しく、経済力のある男性を頼り、性的な関係を持った。その男性の子を妊娠し、結婚したが、夫とはわずか1週間で別れた。マラウイで彼女のような少女は決して珍しくない。
少女の児童婚の慣習が根深く残っているマラウイ。法的には、子どもであっても両親の同意があれば15歳から結婚できる。しかし、実際には少女はもっと若い年齢から結婚しており、15歳になる前に結婚した女性の割合は12%にも上っている。
国連人口基金(UNFPA)によると、ニジェール、チャド、バングラデシュ、ギアナ、中央アフリカ共和国、マリ、モザンビークに次いで、マラウイは世界で8番目に児童婚率が高い。妊婦の35%は10代だ。このため、クリスティーナのように10代で母親になるケースがとても多い。妊婦の36人に1人は妊娠・出産時に死亡しているが、その4分の1は10代だ。
■女子のHIV感染率は男子の3倍
マラウイでは古くから少女の児童婚に備え、イニシエイション(手ほどき)と呼ばれる大人の女性になるための通過儀礼を行う風習がある。ある村では、少女は体を「浄める」ため、婚前のセックスを強いられる。「ハイエナ」と呼ばれる成人男性に両親が金を支払い、娘とセックスさせることもある。土着信仰が背景にあり、コンドームは使わない。
こうした慣習が、少女のHIV感染拡大につながっている。マラウイのHIV感染率は女性が13%で男性の8%よりも高く、さらに15歳から24歳では女子の感染率が男子よりも3倍高い。マラウイの人口約1600万人の半分は貧困ライン(1日1.25ドル)以下の水準で暮らしており、電気のある生活を送っている人よりも多くの人がHIVに感染しているが、児童婚の風習がそれを加速させている。
児童婚は少女から教育の機会も奪っている。マラウイでは男子の15%がセカンダリースクール(日本の中学3年~高校3年にあたる)を修了するのに対し、女子は7%のみ。もともと貧しい家庭では娘よりも息子を優先して学校に通わせる習慣があるが、児童婚により、家事や育児に従事せざるを得ない少女が大勢いるのも事実だ。
■何歳で女性になるのか?
マラウイは18歳未満を「子ども」とする子どもの権利条約を批准しているが、法律によって「15歳未満」「16歳以下」「18歳未満」などとそれぞれ規定されており、「子ども」の法的な定義はあいまいなままだ。
現在、法的に結婚可能な年齢を例外なしに18歳以上とする法改正案が国会に提出されているが、議論はすでに行き詰まりを見せている。理由は、この改正案が児童婚だけでなく、一夫多妻制の禁止などを包括的に盛り込んでいるためだ。すでに存在する伝統や慣習を法律で禁止するのは容易ではない。
マラウイの保守的な伝統社会で児童婚の問題に対処するには、村長や地域の権力者など村人に影響力を持つ人物を巻き込むことが鍵になる。
マラウイ中部ンチェウ県で、211の村を統括する立場にあるクワタイネ氏は、母親の健康促進キャンペーンを、彼が治めるすべての地域で実施している。クワタイネ氏はヘルスセンターの利用を促すために、2006年より家での伝統的な出産を禁止。2011年には、21歳未満の女性の結婚を禁じる条例を制定した。国連児童基金(UNICEF)は、クワタイネ氏の功績を認め、同地域をマラウイの中で最も妊産婦死亡率の低い地域の1つと評価したが、このようなケースはまだまだ例外的だ。
少女が子どもとして学び、遊ぶ。それは人間が人間として生まれながらに持っている権利、すなわち人権に他ならない。にもかかわらず、法律、伝統、貧困が複雑に絡み合い、彼女たちの人生を「結婚」に縛り付けているのだ。少女たちは自らの意思で児童婚を選んでいるわけではないことを忘れてはならない。(マラウイ・リロングウェ=谷口香津郎)