アジアの子どもの人身取引問題に取り組む認定NPO法人「かものはしプロジェクト」(本部・東京)が都内で活動報告会「夜かも」を開き、代表・村田早耶香さんが途上国の女子児童の人身取引や強制売春の実態、同団体設立の経緯、カンボジアやインドでの活動などについて講演した。
■1万円で売られる子ども、「私のワンピースと同じ値段」
「かものはしプロジェクト」は2002年設立。女性の自立支援や研修プロジェクトなどを通して、子どもの人身取引被害を未然に防ぐことを使命としている。「人身取引」とは、人をある場所に監禁するなどし、別の場所へと連れ去ることで自由を奪い、さまざまな強制労働をさせて利益を搾取することを指す。
被害に遭った女子児童の多くは貧しい農村の出身で、ブローカーに「いい仕事がある」などと騙されて強制的に売春をさせられるケースが多い。売春宿では暴力を振るわれたり、水や食料を与えられなかったり、逃げ出せないように薬物中毒にされたりすることもある。
HIVなどに感染し、命を落とすことも少なくない。仮に逃げ出せたとしても、地元の村で差別や偏見を受ける子どもも大勢いる。人身取引は子どもの笑顔と未来を奪う悪質な人権侵害行為だ。
村田さんがこの問題に関心を持ったのは大学時代。タイの少数民族の女の子が被害に遭い、HIVで命を落とす話を授業で聞き、深いショックを受けた。「たまたま貧しい国の貧しい家に生まれただけで、たった1万円で売られてしまう子どもがいるなんて」。女の子ひとりの値段が、そのとき着ていたワンピースの値段と一緒だった。
「生まれた国が違うだけで、こんなにも人生が変わってしまうのか」。これがきっかけで、児童の人身取引に関する本をたくさん読んだり、タイの少数民族を訪ねるスタディーツアーに参加したりして知識を深めた。
■カンボジアの性的犯罪・人身売買、逮捕者数は9年で9倍
2001年、日本政府、国連児童基金(UNICEF)、国際NGOなどの共催で「第2回児童の商業的性的搾取に反対する世界会議」が開催された。村田さんは日本の若者代表として、各国の人身売買に関する法律の厳罰化や、性的搾取被害の甚大さを教育現場で教えることの重要性などを世界に呼びかけた。
だが、「各国の取り組みが始まるまでの間にも、子どもたちはどんどん売られてしまう。何とかしなければ」と焦燥感が募った。翌年、村田さんは仲間2人と「かものはしプロジェクト」を立ち上げた。
最初の活動先として選んだのはカンボジア。村田さんらは子を持つ親たちに“子どもを売らせない”ようにすることが問題の根を絶つうえで何よりも大事だと考え、貧しい農村に暮らす母親たちの職業訓練と雇用創出を同時に行う「コミュニティ・ファクトリー」を建設した。
女性たちは井草のペンケースやコースターなどの雑貨を作り、外国人観光客にお土産として売ったり、かものはしプロジェクトがインターネット販売をしたりして現金収入の機会を創り出した。そうすることで、子どもたちを売らなくて済む仕組みを作った。
同時に、大人の男たちに対する“子どもを買わせない”活動も欠かせない。村田さんらは、カンボジア内務省による警察官の能力向上研修に財政支援を行い、子どもが被害者となる犯罪の取り締まり強化に取り組んだ。研修の効果は目覚しく、2001年に82人だった性的犯罪・人身売買容疑の逮捕者は、2010年には720人まで増えた。
■日本人も加害者、まずは知ってほしい
こうして見ると、人身取引は途上国特有の問題のように思われがちだが、実は先進国にも無関係な話ではない。村田さんは「先進国の大人たちがアジアの貧しい子どもたちを買っている。残念ながら日本人も加害者だが、その事実はあまり語られていない」と指摘する。
かものはしプロジェクトは2012年、インドでも活動を始めた。インドでは人身取引の加害者が逮捕されても、裁判で有罪になるケースがあまり多くなく、多くの子どもたちが被害にあっているという。「子どもたちを救うには、まず問題について知ってもらう必要がある。本当に解決できるのかと思う人もいるだろうが、動けば世界は変わっていく」。生まれた国に関わらず、子どもたちが笑顔で暮らせる世界の実現に向けて、村田さんはこう力を込めた。(加地紗弥香)