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フィジーで9月17日、注目の総選挙が実施される。8年ぶりとなるこの総選挙は、2006年の無血クーデター以来続く「暫定軍事政権」から民主化を目指すもので、フィジーにしては珍しく世界中から関心を集めている。投票日まで2週間を切ったいま、青年海外協力隊員としてこの国で暮らすなかで感じた情勢を伝えたい。
■有権者の3割が若者、「投票に絶対行く」
「初めての総選挙。絶対に投票に行く」。こう意気込むのは、フィジー西部のシンガトカ町役場で働く私の同僚アンドリューさん(25)だ。
アンドリューさんが支持するのは、フィジー系のバイニマラマ首相が率いる新党「フィジー・ファースト」だ。「首相は道路や橋を直したり、義務教育を14年に無償化したりと、公共投資を多くしてくれたからね。いまの政権が続くことを期待しているよ」と言う。
フィジー・ファーストは、バイニマラマ首相が15年務めた国軍司令官を辞め(それまでは首相と司令官の兼任)、文民として14年3月に立ち上げた党だ。いわば、総選挙用に自身の支持者を集めて結成したもの。候補者名簿には法相をはじめ、外相、労働相など現役閣僚のそうそうたる顔ぶれが並ぶ。ちなみに首相は国軍司令官だった06年の総選挙の後、無血クーデターを起こした張本人だ。民主化に応じなかったため、09年に英連邦から除名されている。
フィジーの総選挙は比例代表制。18歳以上の男女が投票権をもつ。フィジー・タイムスによると、登録した有権者数はおよそ550万人。この3割が18~35歳の若い世代だ。政治への意識が高いかどうかはともかく、総選挙に対する関心は間違いなく高い。この国の将来がかかっている一大事を見られるとあって、異邦人の私でさえワクワクする。
今回の選挙に登録された政党は7つ。議会の過半数25席(一院制で全50議席)をめぐって争う。選挙管理委員会のリストによれば、立候補者は政党所属者が248人、無所属が2人だ。
■政策には無関心、争点は既得権益?
フィジーでは、各党の政策を吟味して投票する人はまだまれだ。大まかな投票基準は「宗教」か「民族」。フィジーの人口の4割は、イギリスの植民地時代に連れてこられたインド系だが、フィジー系にしろ、インド系にしろ、自分の民族に便宜を図ってくれそうかどうかで候補者を選ぶ傾向がある。
フィジー・ファーストは、すべての民族は平等であるべきというリベラルな主張を掲げている。民族の違いを超えてこの党を支持する人がいる半面、既得権益がなくなることを恐れるフィジー系の票は、社会自由民主党(ソデルパ)に流れているようだ。
そのソデルパは、キリスト教メソジスト派のフィジー系を母体とする政党。村落部を中心に根強い人気を誇る。フィジー系のロ・テイムム元教育相が率いる。7つの登録政党のなかで唯一の女性党首だ。
ソデルパの主張は単純明快だ。キリスト教を国教に定め、土地の所有権などでフィジー系を優遇するとうたっている。首相が廃止した伝統的首長制度(各地域の有力者を中心とする意思決定機関)も復活させると公約する。一言でいえば「保守」。フィジー系に支持者が多い。
フィジー系をひいきするソデルパの主張には実は一理ある。多民族国家のフィジーではフィジー系とインド系の2つの民族が対立してきたが、何の手立ても打たなければ、ビジネスの才に長けたインド系が少数派にもかかわらず権力を握ることが多い。この結果、フィジー系の不満が爆発し、政情不安に陥るという危険が常につきまとうからだ。
その代表的な出来事が、フィジー系の武装集団が00年に起こした議会占拠事件だった。これはインド系が前年に政権を取ったことへの反発。民族の壁を乗り越えようと、同盟政権が組まれたこともあったが、頓挫した。
そのためか現在でも政治・公安・軍隊の分野では、フィジー系を優先的に採用する制度がある。フィジー系のことをフィジー語で「所有者」を意味する「イトケイ」と呼び、露骨に優遇しているのだ。
両党以外だと、インド系を中心とする「労働党」、学者などの有識者が集まる「人民民主党」がある。ただ支持率は低い。人種間の格差是正を目指すフィジー・ファーストと、フィジー系を中心に国家の安定を狙うソデルパの一騎打ちになるというのが大方の予測だ。
ちなみに選挙管理委員会が発行する投票者向けガイドには、選挙の争点は「雇用の創出」「経済振興」「社会インフラの整備」と書かれている。ただ、こうしたテーマを各党の公約と比べて真剣に議論するフィジー人を私は見たことがない。
■圧勝なら反乱? 協力隊は国外退避を準備
報道によれば、フィジー・ファーストが圧倒的優位に選挙戦を進めている。バイニマラマ党首は「次期首相に好ましい人物」として8割強の支持を獲得。2位のロ・テイムム党首を大きく引き離す。フィジー・ファーストが勝てば、選挙はあっさり終わると思わなくもない。
ところが、フィジー・ファーストが圧勝することで、他の政党が反乱を起こす、との見方もある。06年のクーデターも、総選挙の結果に不満をもった現首相(当時は国軍司令官)が起こしたものだけに、この予測が現実にならないともいえない。青年海外協力隊員を含む国際協力機構(JICA)関係者は実際、万が一に備えて国外退避の準備もしている。
熱を帯びる選挙戦。選挙は9月17日に即日開票される。どんな結果であれ、フィジーの歴史の転換点になることは間違いない。伝統的な首長制で国が動いてきたフィジーに、“近代的な民主主義”は定着するのか。民主化がどこまで有権者のハートをつかめるのか。すべてはこの選挙にかかっている。(高野光輝)