ベナン唯一のトウモロコシ酒を作る女性がいた! 3年経って利益出ずとも「人気はきっと出る」

休日のお昼下がりにトウモロコシ酒はいかが?(ベナン・アボメカラビのホテルで撮影)

トウモロコシから作る酒がベナンに1つだけある。作ったのは25歳のベナン人女性ジドノ・リロリアさんだ。3年前にベナン国内で売り始めたが、年間の生産本数はわずか約400本。利益はいまだにほぼゼロだ。だが「飲んでもらえばきっと人気は出るはず」とリロリアさんは自信をあらわにする。

トウモロコシ酒は、水とトウモロコシのみで作られる醸造酒だ。アルコール度数は12%。薄く濁る黄色が特徴的。香りはフルーティで、トウモロコシのほのかな甘味と爽やかな酸味が口の中に広がる。「冷やして飲むと特においしい」とリロリアさんは言う。

トウモロコシ酒はできるまで1年かかる。初めに糖度の高いトウモロコシを水に漬け6カ月間寝かせる。次に、ゆっくりとかき混ぜ、さらに3カ月熟成させる。トウモロコシの芯を取り除いた後、もう3カ月保存し、ゆっくりと不純物を沈殿させて完成だ。

トウモロコシ酒を作るきっかけは学生時代に遡る。ベナン北部の都市パラクで有名な雑穀酒「トゥクトゥ」の研究をしていた際に、「トゥクトゥの製造方法を真似して、何か新しいお酒が作れないか」と考えた。ベナンでは、ナツメヤシ酒「ソダビ」やハイビスカスを使ったお酒がある。それ以外の手軽な原料はないかと目を付けたのがトウモロコシだった。

着想から販売まで約4年を要した。味を調整するために、家族や友人20人以上に何度も試飲してもらった。トウモロコシ酒を入れるワインの瓶を見つけることにも苦労した。ベナン国内では、ほとんどワインが作られていない。そのためワインの瓶の仕入れ先を見つけることができず、結局瓶を輸入することに決めた。

だが年間の生産本数が400本と少ない。父、夫と手分けして作っているため、大規模に生産できない。ベナンでは銀行融資が発達しておらず、かといってマイクロファイナンス(小口金融)の審査も厳しい。いくつかのベナン企業から事業提携の打診を受けたが、信頼ができずに断ってきた。

販売を始めて3年が経過したいまも利益はほとんど出ていない。課題は価格設定だ。1本3000CFAフラン(約600円)という価格は、一般的なワインの価格2000~5000CFAフラン(約400~1000円)と比較しても決して高すぎない。だが消費者からは「ベナンでとれるトウモロコシの酒は、フランスやスペインからの輸入ワインより安いはずだ」と理解してもらえない。

トウモロコシ酒を1本作るには、瓶200CFAフラン(約40円)、コルクの栓300CFAフラン(約60円)、栓部分の包装200CFAフラン(約40円)が必要だ。トウモロコシの仕入れ費、保管費を考えれば、赤字を出さないだけで精一杯だという。

「トウモロコシ酒の認知度を高めることがカギ。飲んでもらえばきっと人気は出る」とジドノさんは自信あり気に語る。人気が出れば、価格を上げられる。売り上げが増えれば、生産本数の増加、販路の拡大が可能となる。

認知度を高めるために地道なPR活動を計画中だ。ベナン最大の都市コトヌーの幹線道路沿いに、ミニスタンドを年内に3店舗出店させる。キャンペーン価格でトウモロコシ酒を提供し、ファンを増やす狙いだ。販売本数を増やすことができれば、国内レストランにも卸したいと青写真を描く。

海外への輸出も視野に入れている。フランスの団体が2019年にベナンで主催したワインの品評会に出品したときのことだ。品評会では8位にとどまったが、主催団体の代表が「おもしろい」と気に入った。フランスでの生産について話を持ちかけられ、現在協議中だという。また国内の商社を通じて、フランスでベナン産商品として紹介された。

ベナンの一般的な酒屋に行くと、輸入ワインばかりが並び、国産の酒はほとんど置かれていない。ベナン産のトウモロコシ酒が、新たなベナンの定番になる日は来るだろうか。「すぐにとはいかないが、輸入ワインに対抗するくらい人気を出したい」とリロリアさんは理想に燃える。

リロリアさん(左)と筆者(右)。トウモロコシ酒を試飲した筆者はベナンのお土産に2本購入した(ベナン・アボメカラビのホテルで撮影)

リロリアさん(左)と筆者(右)。トウモロコシ酒を試飲した筆者はベナンのお土産に2本購入した(ベナン・アボメカラビのホテルで撮影)