東アフリカの内陸部に位置する世界最貧国のひとつブルンジに移住した日本人女性がいる。ドゥサベ友香さんだ。ドゥサベさんは2019年、牛ふんをもとにバイオガスを発生させるプラントの建設を始めた。薪の代わりにバイオガスで調理することで、森林の伐採を防ぐのが狙いだ。ドゥサベさんは「生涯をかけてブルンジでバイオガスを普及させたい」と意気込む。
■9頭の牛ふんで50人分を調理!
バイオガスとは牛や豚のふんを発酵させて取り出す有機ガスのこと。バイオガスを作るのに必要なのはふんだけ。「家畜さえいれば、調理に必要なエネルギーは常に確保できる」とドゥサベさんは説明する。
ドゥサベさんは、このバイオガスのプラントをブルンジ北西部の孤児院の近くに作る計画を進めている。実現すれば、1日24キログラムの薪を節約できるという。
建設予定のプラントでは1日9頭分の牛のふんを発酵させる。これにより調理時間9時間相当のバイオガスが発生する。孤児院の子どもとスタッフあわせて約50人分の食事を1日3回用意するのに十分な量だ。
発酵させたふんのかすは肥料としても利用できる。
「太陽光パネルは10年で使えなくなる。風力発電は高度な部品や機器が必要になる。それに比べバイオガスプラントは半永久的に使える。プラントもブルンジ国内で作れる。途上国の農村で暮らす人たちにとってエネルギーを手に入れるぴったりの方法」(ドゥサベさん)
目標は、バイオガスプラントを広め、調理用の薪の消費を減らすこと。そしてブルンジで進行する森林伐採を食い止めることだ。ブルンジでは1990年代から2000年代までに森林の約半分が消失したといわれる。
■地面に落ちたご飯をすすり食う
森林伐採が進行する背景には深刻な食料不足がある。
まず農地が足りない。ブルンジの国土は北海道の3分の1ほど。丘が多く、農地として不向きだ。灌漑も引きにくい。だが人口は急激に増える一方。世界銀行によると、ブルンジの人口は2000年から2倍の1200万人に膨れ上がった。1平方キロメートルあたりの人口密度は約450人と、日本の350人より高い。
食料需要の高まりを受けて、ブルンジ人は森を農地へと開拓してきた。その結果、生態系は壊され、土地はやせ細っていく。「このままだとブルンジは将来、大変な食料危機に陥る」(ドゥサベさん)
膨れ上がる貿易赤字も食料不足を増長する。隣国のタンザニアなどから食料を輸入するが、ブルンジから輸出できるものはコーヒーやお茶などに限られる。2017年の貿易赤字は輸出額の5倍(世銀)と、ブルンジの財政は深刻な状況だ。
ブルンジの貧困を語るうえで忘れられない思い出がドゥサベさんにはある。2016年にブルンンジに移住してすぐ、友人の結婚式に招かれたときのことだ。会場の外では、貧しい子どもたちが残飯を求めて集まっていた。式が終わり、余った食事を子どもに分け与えようとした瞬間、子どもたちが一気に押し寄せた。勢い余ってお皿がひっくり返り、ご飯が地面に散らばった。しかし子どもたちは地面に這いつくばり、我先にとご飯をすすりだしたのだ。
野良犬のように残飯に群がる子どもたち。このときのことを「トラウマのようにいまも覚えている」と語るドゥサベさん。人間の尊厳さえも踏みにじる貧しさにショックを受けると同時に、ブルンジ人の貧困脱却に生涯を捧げることを誓った。
■ブルンジをバイオガス大国に
ドゥサベさんは2014年、かねて交際していたブルンジ人のリチャードさんと結婚した。「自分たちのできることから始めようと思った」と語るドゥサベさん。リチャードさんは大学で自然エネルギーを学び、ドゥサベさんは開発経済学の修士を取得していることからバイオガスに注目した。
今回のプロジェクトではまず孤児院にバイオガスプラントを建設。これを足がかりに、バイオガスをブルンジ中に広めたい考えだ。
その実現に向けた一歩としてドゥサベさんはクラウドファンディングで資金を集め始めた。目標額の144万円を元手にケニアのバイオガス業者にプラントの建設と運転指導を依頼する。リチャードさんをはじめするブルンジ人はケニアの業者と一緒にプラントを作り、運転の仕方も学ぶ。プラントの建設から運用までのノウハウを身につけたブルンジ人が将来、国内各地にバイオガスを広めるという青写真を描く。
「バイオガスという自然エネルギーをブルンジ人の手で作り出せるようにしたい。それが彼らの誇りにもなる」。ドゥサベさんはこう期待を口にする。