LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー=性的少数者)に対する差別や暴力がいまも日常茶飯事のアフリカ。とりわけサブサハラ(サハラ砂漠以南の)アフリカでは同性愛行為を違法とする国が過半を占める。人権団体やドナー(援助)国は近年、アフリカ諸国に対して非人道的な法律を撤廃するよう強く求めてきたが、事態は改善されない。LGBTを巡るアフリカの現状と援助のあり方を2回に分けて考えてみる。
■LGBT禁止条項を持ち込んだのは誰か
「英国は、LGBTの人権を認めない国には援助しない」
オーストラリア・パースで2011年10月末に開かれた英連邦首脳会議。英国のデービッド・キャメロン首相は突如、こう発言した。日本のメディアはあまり報じなかったが、この言葉はアフリカ諸国に大きな衝撃を与えた。
英国と旧植民地で構成する英連邦には54カ国が加盟している。このうち19カ国がアフリカ諸国。冒頭のキャメロン発言は明らかに、アフリカで根強いLGBT差別を問題視したものだった。英国としては、欧州危機に端を発する財政難を抱えるなか、人権侵害のひどい国への援助を減らし、政府開発援助(ODA)を効率化したいという思惑もあったことは想像に難くない。
英国のこのやり方に対して、アフリカ諸国は当然、こぞって猛反発した。アフリカのLGBT問題について詳しいNGO関係者は説明する。
「LGBTを違法とする『ソドミー(男性同士の性行為)法』はそもそも英国が統治時代に持ち込んだもの。もっといえば英国は欧州のなかでもLGBTの取り組みは遅れているほうだ。サッチャー政権は、LGBTについて教えてはいけないという地方自治法26条を制定した。LGBTの人権について言う資格のない国の首相が粗雑に発言したものだから、アフリカ諸国が反発するのは無理もない」
■ウガンダ、100人のLGBTの顔写真を公表
キャメロン発言の1年前。LGBT差別が厳しい国のひとつウガンダで、ショッキングな出来事があった。
10年8月に創刊したウガンダのタブロイド紙ローリングストーン(米国の雑誌ローリングストーンとは無関係)が同年10月、100人のウガンダ人ゲイの顔写真を紙面に掲載したのだ。さらに「絞首刑にしろ(hang them)」のフレーズをサブタイトル的に付けた。この3カ月後の11年1月、ウガンダで著名なLGBT人権活動家のデービッド・カトー氏は本当にハンマーで殴り殺されてしまった。
キャメロン首相の発言にも、ウガンダで起きたこの一連の事件は影響していたとみられる。このときウガンダ議会には、同性愛行為を死刑とする反ゲイ法案が出されていたが、ドナー国はこの法案を激しく非難。「(成立させれば)援助を引き上げる」と圧力をかけたことが奏功し、ウガンダ議会は12年、法案を棚上げした。ただ一部の政治家はいまだに、LGBTへの死刑導入に躍起になっていると伝えられる。
■LGBT擁護のNGOは活動禁止に
法案の成立は回避できたが、ウガンダはここにきて、LBGTの排除を強めている。
ウガンダ政府は6月、少なくとも38のNGOの活動を禁止すると発表した。理由は「(LBGTの)人権擁護の活動と見せかけて、子どもを同性愛の世界に勧誘している」からだという。対象となるNGOは登録を抹消され、ウガンダ国内で活動できなくなる。
さらにウガンダ警察は9月、首都カンパラの2つの小さなバーで、LGBTの人権をテーマにした演劇をプロデュースした英国人を「無許可だ」として逮捕した。
この演劇のタイトルは「川と山」。出演者は全員ウガンダ人。ゲイのビジネスマンが同性愛者と判明した途端、友人らに見捨てられ、揚げ句は従業員に殺されるというストーリーだ。
英国人は200ドル(約1万6000円)を払って、4日後に釈放された。ただパスポートはウガンダ当局が保管している。次の公判は10月18日の予定。有罪が宣告された場合は懲役2年が科されるという。
■カメルーン、携帯ラブメールで逮捕
LGBTにとってほんのささいな行為で刑務所送りとなるのはカメルーンだ。
ある同性愛者は11年、「君と恋に落ちた」と書いた携帯メールを男性に送った。これが発覚し、「同性愛と同性愛未遂」の容疑で逮捕、懲役3年の刑を言い渡されたのだ。
カメルーンのソドミー法では、たとえ合意した大人同士で、しかもプライベートであっても同性間の性行為は犯罪。刑法の規定によると、同性と性行為に及んだ者は、6カ月から5年までの懲役と2万~20万CFAフラン(約3000~約3万円)の罰金となっている。
この同性愛者はすでに1年以上、刑務所に入っている。目下のところ上告中だが、市民運動「オールアウト」は、カメルーン大統領と法相に対し、有罪判決の撤回と同性愛の非犯罪化を求めるキャンペーンを開始。すでに11万人以上の署名を集めた。
カメルーンでは11年に少なくとも20人が同性愛の容疑で捕まった。12年の8月には、カメルーンの若者らが全国で反ゲイのイベントを打ち、「同性愛は人道に対する犯罪。アフリカの価値観を守らなければならない」とシュプレヒコールを上げた。この少し前には、首都ヤウンデのカトリック大司教が「同性愛はヒューマンリプロダクション(人間の繁殖)の理想に反する。家族への侮辱であり、女性の敵だ」と述べたという。
こうした事態を重く見た、アフリカの67のLGBT団体で構成する連合組織「パンアフリカILGA」は、カメルーン政府に対し、①性的指向や性別認識に基づく迫害の中止②合意に基づく同性愛関係を犯罪とするすべての法律の即時廃止③差別的な法律のもとで拘束されたすべての人の釈放――を求めている。
また国境なき弁護士団は、現地の同性愛擁護協会とパートナーシップを組み、カメルーン国内で開かれる同性愛行為を裁くすべての裁判に弁護士を派遣する意向を明らかにしている。(続く)