- 【ganas×SDGs市民社会ネットワーク⑦】「紛争地・被災地で暮らす子ども5億3500万人の多くが教育を受けられない!」、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの堀江由美子氏に聞く
- “顔の見えない援助”は要らないのか、ODAを考える
- 「トランポリンで笑顔を作りたい」、45キロの器具を担いで13カ国を旅した石原舞さん
- 「バイクのことなら任せろ!」 カンボジア・激動のポル・ポト時代を生き抜いたバイク修理屋、強運で切り開いた人生
- 消費者の力で児童労働は撲滅できる! ノーベル平和賞受賞者カイラシュ氏が人生を懸ける「3つの運動」とは
- AAR Japanがヤンゴンで運営する「障がい者向け職業訓練校」、二十歳の孝行息子の夢は「親に仕送りすること」!
「報告・連絡・相談(報・連・相)」といった日本式のソフトスキル研修をカンボジアで事業化させようと挑戦する会社がある。東京・渋谷に本社を置くピープルフォーカス・コンサルティング(PFC)だ。PFCは2019年、カンボジア国内の工場労働者を対象に「報・連・相」を学べるゲームを実施。労働者から「(上司に)相談しても良いんだ」との声が上がるなど、工場内のコミュニケーションが改善されたと好評を得た。目下の課題は、研修事業からどう収益を上げるかだ。
■ゲームで楽しく学ぶ
ソフトスキル研修のパイロット(試験的)プロジェクトをPFCがカンボジアで初めて実施したのは2019年4月からの7カ月。場所は、首都プノンペンとアンコールワットを擁する街シェリムアップにある3つの工場だ。
プノンペンでは、日本の100円ショップで売られる箒や便座カバーを作る工場で働く男女16人を対象にタスクマネジメント研修を開いた。テーマとして取り上げたのは報・連・相の必要性とやり方。「RICモデル(R:Report、I:Inform、C:Consult)」と言い換え、身近な例を織り交ぜながらクメール語で伝える。
研修では、たとえば友だちと朝9時に大学で待ち合わせするという場面を想定してもらう。約束時間を30分過ぎても相手が現れず、連絡がなにもなかったら、待っている方は心配になる。こういう理由だからこれぐらい遅れるよ、と友だちが「連絡」さえしてくれれば、待っている方も待ち時間を有効的に使えるでしょ、などと説明する。
説明だけではもちろん不十分だ。そこでPFCは、紙で輪っかを作ってつなげるゲーム(Ring Chain Factory)をやった。報・連・相があるのとないので業務がどう変わるのかを体感してもらうためだ。所要時間は20分。
このゲームではまず、労働者を「マネージャー役」と「工場労働者役」の2つのグループに分ける。工場労働者には、輪っかを作り、つなげるための紙、ホッチキス、のりを渡しておく。
やり方はこうだ。マネージャーが「ピンクとブルーの紙で輪っかを作り、つなげるように」と指示を出す。労働者は作業し、報告(Report)する。次に、マネージャーは、ホッチキスを取り上げたうえで、同じように輪っかを作るよう指示。工場労働者が「輪っかを作るために必要なホッチキスがない」と連絡(Inform)すると、マネージャーが「のりを使うように」とアドバイスする。「材料が余った」と労働者が相談(Consult)すれば、マネージャーは「では何か新しいものを作ろう」と提案する。
PFCの社員で、カンボジアでのソフトスキル研修の事業化を担当する千葉達也氏は「報・連・相をすれば、工場内の問題はかなり改善できるという経験を得てもらうことが重要。カンボジアで報・連・相を広めるニーズ、効果はあると確信した」と話す。
■1ドルが出せない!
事業化への壁は、研修費用をだれが負担するかだ。
PFCは当初、研修費用として労働者1人当たり1ドル(約108円)と考え、工場側に負担してもらう算段だった。「価格は抑えたつもりだった。だが地元企業にとってみれば、この金額でも高いことがわかった。研修に対する評価は高かったけれど‥‥」と千葉氏は言う。
ジーンズの縫製工場を訪れたときのことだ。工場経営者から、ジーンズ1本作っても粗利はわずか2ドル(約216円)だと聞かされる。労働者を研修に参加させるということは、その時間、工場の稼働を止めることを意味する。1人1ドルの研修費用は想像以上に負担が大きかったのだ。
そこでPFCは、研修のターゲットを労働者からマネージャーに変更すると決める。「カンボジアにはマネージャーのスキルをもつ人が少ない。プノンペンで開かれる、マネージャー向けの2日間の研修に100ドル(約1万800円)払う企業もある」(千葉氏)
研修の費用も、地元企業が負担するのではなく、外部から引っ張ってこられないかと考えている。たとえば、カンボジア人のキャパシティビルディングのひとつのやり方として、カンボジア政府の補助金を使ったり、国際NGOのプロジェクトに組み込んだりといった具合だ。
PFCはいま、京都に本部を置く国際協力NGOテラ・ルネッサンスと協力して、アフリカのウガンダでもソフトスキル研修を広めようと計画する。ターゲットは、元子ども兵や貧しい若者。社会復帰・自立するうえでは、木工大工や洋裁などのスキルだけでなく、顧客とのコミュニケーションや地域住民との関係構築も重要。それをソフトスキル研修で高めようというのが狙いだ。