「日本の文化に恋をした」。こう語るのは、コロンビア人のケリー・オカンポさん(21)だ。ケリーさんは、南米コロンビアの首都ボゴタで2019年3月に開かれた全国日本語弁論大会(主催:在コロンビア日本大使館)の上級の部の優勝者だ。スピーチのテーマは幼馴染の男女の恋愛をテーマにした伊勢物語でも扱われる「筒井筒(つついづつ)」。将来は日本でスペイン語の先生として働きながら、コロンビアと日本と架け橋になりたいと言う。
■何それ? 中国語?
ケリーさんは、コロンビア第2の都市メデジン出身。カトリック系の教皇ボリバル大学で言語学を学ぶ2年生だ。
全国日本語弁論大会には過去7回出場。2016年に初級の部、2018年に中級の部で優勝し、上級の部への出場権を得た。1次審査の原稿審査、2次審査の録音音声データ審査を通過することで、最終審査である5分間のスピーチの舞台へ立った。
スピーチのタイトルは「私の好きな日本語」。幼馴染の男女の仲を表す言葉「筒井筒」がテーマだ。日本人でも知らないような日本語を聴衆に向けて説明することで、言葉から文化を知る楽しさを伝えた。
発表当日は緊張もしたが、楽しみながらスピーチができた。日本語で準備したスピーチの内容をみんなに伝えたいという気持ちが優ったからだ。優勝の発表を聞いた時の最初の感情は驚きだったが、当日誕生日だった母親が喜んで泣いている姿を目にし、喜びに変わった。
大会へ向けた準備は2カ月前から始めた。毎日、バスに乗っている時間を含め、寝る直前まで時間を見つけては練習を続けた。「まだ寝ないの?」と母親に心配されたり、大学やバスの中では「何それ?中国語?」と怪訝な目で見られたりすることもあった。
「日本語が大好きならたくさん勉強してください」。ケリーさんの日本語の先生である、メデジンのEAFIT大学・日本語教師の羽田野香里さんの言葉を糧に練習を続けた。
ケリーさんが「筒井筒」を選んだのは、昭和9年(1934年)の封切られた映画「湯島の白梅」をネットで見つけて大好きになったからだ。「芸者と舞妓が舞う姿に一目惚れし、就寝前に毎日聞いた」と言う。羽田野さんの「言葉の後ろに歴史もあるよ」というアドバイスから、スピーチの内容を考えた。
■日本人と結婚したい
大会優勝者への賞として、大阪の国際交流基金センターが主催する2週間の研修へ招待された。コロンビアにいるときには知らなかった日本のことを知ることができたという。「電車の時間が正確で、みんなが静かに乗っていることに驚いた」
日本では大阪の日本人一家にも1日ホームステイをした。お母さんが着物を着せてくれたり、たこ焼きパーティーを開いてくれたり、日本文化を実際に体験した。日本のおもてなしの文化が前よりも好きになった。今では「日本は第2の故郷」と穏やかな表情を見せる。
ケリーさんの生きがいは「コロンビアと日本の架け橋」になること。日本人と交流し始めた時は悲しい経験もした。ケリーさんが感謝を表現するため日本人にハグをしようとしたところ、「日本人はしない」と否定されたことも。だが「日本とコロンビアの文化は違う。でも、焦らないで相手の文化を見て勉強したい」と思いを強くした。
ケリーさんの趣味はカラオケだ。コロンビアの歌も好きだが、日本の歌謡曲が一番だと言う。今ハマってる曲は、薬師丸ひろ子の「Woman Wの悲劇」だ。カラオケは、歌詞を見ながら歌を歌うのも漢字の勉強になる、と日本語への向上心も忘れない。
最近は、日本でスペイン語の先生として暮らすことを目指し、大学で、日本語以外の言語の勉強にも力を入れている。以前は毎日4時間していた日本語の勉強が今は2時間くらいに減った。「もっともっと日本語を勉強したい」と熱い思いを語る。
ケリーさんの日本に対する熱は、3年前に日本語を勉強し始めたときより高まる一方だ。「将来は、白無垢を着て、日本人と結婚式を挙げたい」と照れた表情を見せる。