5つ星ホテルに就職できる! サボったらクビ? ヤンゴンの職業訓練レストラン「シュエサブエ」

料理修行に毎日奮闘するシートゥーくん(ヤンゴンにある職業訓練レストラン「シュエサブエ」で撮影)

ミャンマー・ヤンゴンにある“職業訓練校を兼ねるレストラン”「シュエサブエ(Shwe Sa Bwe)」で修行中のシェフの卵がいる。ミャンマー中西部のエーヤワディー出身のシートゥーくん(19)だ。このレストランでは11カ月にわたって西欧料理の特訓を受ける。

■トリップアドバイザーで10位!

ヤンゴンの中心部から車を走らせること15分。白を基調とした2階建ての建物が視界に飛び込んでくる。足を踏み入れると、店内は白い壁、白いテーブルクロス、白または黄色のいすがゆったりと並び、清潔感あふれる空間が広がる。黄金の象や壺、オーナーが趣味で集めた色鮮やかな絵が高級感を演出する。橙色のタイルを敷き詰めた庭もある。

このおしゃれなレストランにシートゥーくんがシェフになるために修行にやって来たのは2019年8月。「料理の先生はここに4人いる。みんな厳しい。料理の勉強を怠った訓練生はレストランを追い出される。入学した当初は16人いた仲間(調理コース)も今は9人に減った」と話す。

入って最初の1カ月間は調理器具の名前、使い方、呼び方を学ぶ。次の2カ月は教科書でレシピを勉強。入学して3カ月経ってから、実際の料理作りが始まる。

シートゥーくんがシュエサブエで初めて作ったのはクレープだ。「僕はそれまでクレープを食べたこともなかった。どんなものなのかも知らなかった」。訓練についていくため、週に1日の休みや夜も家で料理を練習した。そのおかげか、料理の訓練が始まって2カ月で「自信がついてきた」と言う。

訓練の費用は11カ月で7万チャット(約5400円)。ドロップアウトせずにすべての過程を終えると全額返ってくる仕組みだ。シートゥーくんは「だから卒業しなきゃ」と笑う。

訓練中の給料はない。だがその代わりに料理の値段の10%に当たるサービス料(チップ)を訓練生全員で分け合う。1人あたりおよそ月に5万チャット(約3900円)にのぼる。無料の宿舎で暮らせるため、生活にあまりお金はかからないという。

■一流料理に隠された秘密

シュエサブエのコースメニューは、高級店らしくおしゃれだ。3月の夕食を例にとると、「焦がしトマトのスープ、バジルとパンチェッタ添え」「鯖のエスカベチェのレモンカードとビネガーペーストあえ」「ミャンマーラビオリ、カヤ(カヤ州の)ソーセージ、シャン(シャン州の)トマト、チョロギ(シソ科の根)とパセリのムースフォーム」。

トリップアドバイザーの評価は4.5点。ヤンゴンにある1026軒のレストランの中で10位に入る。

「はじけるように新鮮なサラダ、暖かいブレッド、そして、白身魚のムニエル、ボリュームもちょうどよし」「コースで頼んだが、何れも洒落た料理で満足出来た」「スタッフのサービスの笑顔が素敵で、皆さん若くヤンゴンスピリッツを感じた」などの高評価のコメントがトリップアドバイザーのウェブサイトにずらりと並ぶ。

コースメニューを作るのは、実は訓練生たちだ。3人でグループを作り、そこに1人の先生がつく。担当するのは、コースメニューの中の1品。先生がチェックし、ゴーサインが出たものがテーブルに運ばれる。「コースメニューは毎月変わるから、新しいメニューを覚えるのが毎回難しい」とシートゥーくんは話す。

シュエサブエが提供する料理は西欧スタイルだけではない。オーナーシェフのデイビー・エイクさんがフィリピンとオランダの血を引くこともあって、バナナの花のサラダやカラマンシー(フィリピンで採れるライムのようなもの)のパフェといったアジア料理も出す。

夕食のコースメニューの値段は5万8000チャット(約4500円)。これはミャンマーの1日の最低賃金(4800チャット=約370円、2018年)の11日分。このため来店客の多くは外国人だ。

■父と一緒にレストランを開きたい

11カ月に及ぶ訓練が終わると、3時間半にわたる卒業試験がある。筆記と実技の2つ。筆記試験では、料理に使う素材や器具の名前、さまざまな調理方法、レシピ、それぞれの料理に適した温度はどれぐらいか、などを問われる。実技試験ではコースメニューを自分ひとりで作る。卒業試験に合格すると証明書がもらえる。

この証明書はミャンマーのレストラン業界では知る人ぞ知る存在だ。シートゥーくんは「高級レストランや有名ホテルのレストランへの就職も有利になる。(ヤンゴン市内にある5つ星ホテルの)ノボテルに就職できそう。早く稼ぎたい」と胸を躍らせる。

お金を貯めたら、いずれはエーヤワディーに帰りたいと語るシートゥーくん。夢は、ケーキ職人の父と一緒に自分のレストランを開くことだ。