治療費を払ってくれないからベッドもない! ベナンの水上集落の診療所を悩ます「貧困スパイラル」

ガンビエの診療所で働く看護師、ガブリエル・ロワトさん(診療所内で撮影)。白衣ではなく、アフリカ布で作った伝統的な服を着て患者に対応する。ロワトさんの出身地は、ガンビエの近くにある街アボメカラビ

西アフリカのベナンにある水上集落ガンビエの診療所で、看護師の頭を悩ませる問題がある。それは、患者が治療費を払ってくれないこと。患者が治療費を払わないと診療所の経営は悪化する。その結果、十分な医療が提供できないのだ。

■糖尿病と喘息が多い

こじんまりした港からボートに乗っておよそ20分、ノコウエ湖に浮かぶ小さな陸地の上にサンアンジェガブリエル診療所は建つ。診療所とは到底思えない質素な木造の掘っ立て小屋で、床はところどころ穴だらけ。穴から下をのぞけば水が見える。

電気も通っていない。昼間は太陽光パネルで電気を作る。診療所の中にある小さな電灯で部屋を照らすが、昼間でも薄暗い。充電池を置いていないため、夜は電気がなく、真っ暗だ。

ベッドや医療機器も足りない。看護師が特に困るのは、血糖値を測る機器や、薬剤やスチームを口から取り込む吸入器がないことだ。

「ガンビエには糖尿病を患う高齢者や喘息もちの子どもが多い。だが必要な医療機器がないから十分に治療できない。より多くの人を助けるにはこれらの機器がどうしても必要だ」と、この診療所で働く男性看護師のガブリエル・ロワトさんは話す。

医療機器をそろえられないのは、患者が治療費を払わないからだ。ロワトさんは「患者は『後から払うから』と言う。だれど、なかなか払いに来てくれない」とこぼす。

■治療費は1回3600円!?

とはいえ患者を責めるのは酷だ。「ガンビエには貧しい人が多い」(ロワトさん)のも現実。ロワトさんによると、漁業で生計を立てる住民の大半が常に手元にある生活費以外のお金は5000〜1万CFAフラン(900~1800円)ほどだという。

診療所にかかれば1回当たり必要となるのは5000〜2万CFAフラン(900~3600円)。ガンビエの住民にとってはポケットからサッと出せる金額ではない。

治療費が払えないため、子どもを病院に連れていかない親もいる。その場合、伝統的な薬を親はのませる。だが適切な使用量を守らないため、症状を悪化させてしまうこともあるという。

■助産師は1人だけ

数万人が暮らすといわれるガンビエには2つの私立診療所と1つの公立診療所しかない。正規の看護師も少なく、働いている人の多くは看護師のアシスタントだ。ロワトさんによると、ベナンで看護師になるための公立学校は、最大都市のコトヌーと北部のパラクーにある2校だけ。「国内で看護師の免許をとることは難しい」(ロワトさん)

ロワトさんはベナンの隣の国ニジェールの大学に通った。看護師免許を取得した後、ベナンに戻ってきた。お金さえあれば、海外で勉強できるが、1人当たりの国民総所得(GNI)が870ドル(約9万4300円)のベナンで暮らす人にとって、留学は簡単ではないのは火を見るよりも明らかだ。

ロワトさんの目標は、学校へもう一度行き、婦人科の知識を学ぶこと。ガンビエでは子どもを産むときに命を落とす女性が多い。その原因は助産師不足と感染症だ。

「ガンビエに助産師はいま1人しかいない。助産師の資格をとって、もっと多くの人を助けたい」。26歳のロワトさんは将来をこう描く。

ガンビエへ行くための港。ここから小さな舟に乗る。港の脇には取れた魚を売る市場がある

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アフリカ最大の水上集落ガンビエ。“アフリカのベネチア”の異名もとるが、ベナンの中でも貧しいエリア。ベネチア感はない

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