殺されたダリットの少女の遺体は木に吊るされていた、アムネスティ「公正な捜査を」

ネパール・カトマンズにある庶民の家の中。記事とは関係ありません(Unsplash)

ネパールで、カーストが最も低いダリットの人たちが惨殺される事件が相次いだことを受け、アムネスティ・インターナショナルは6月6日、ネパール政府に対し、公正な捜査に基づいて加害者を処罰すべきとの声明を発表した。犠牲となった10人のうち1人は、かつて強姦された12歳の少女だった。ネパールではいまだに、カースト差別をなくすのに効果的な政策や法律はない。

ネパール南部のルパンデヒ郡で5月23日、12歳の少女の遺体は木に吊るされた状態で発見された。少女は事件の前日、自分を強姦した別(上位)のカーストの男と無理やり結婚させられていた。

ネパール西部のルクム郡でも同じ日、ダリットの若者グループが、ソティ村の上位カーストの集団に襲われた。グループのうちの1人の男性がソティ村の上位カーストの少女と交際中で、結婚の計画を立てていたためだ。襲われた若者グループは川に飛び込み、少なくとも5人が溺死した。

2つの事件ではともに、村の幹部の関与が疑われている。アムネスティは「村とは独立した、実効性ある捜査が不可欠だ」と訴える。

ネパールでは、ダリットを標的とする暴力や事件が後を絶たない。カースト意識に基づく差別が根強く残っているためだ。同国の人権団体ネパールモニターによると、カーストに基づく差別・暴力事件は2020年に入ってからすでに27件も起きているという。「ダリットの保護対策にほとんど進展がないことも、さらなる暴力につながっている」(アムネスティ)

ネパール政府は近年、ダリットを保護するための法律や政策を打ち出してきた。だがアムネスティによれば、十分に機能していないという。

ネパールでは2011年、カースト差別にあたる行為を禁じる「カーストに基づく差別と不可触制の法律」が施行された。これによってカーストを理由に、公共サービスの利用を拒否した場合、3カ月~3年の刑または1000~2500ルピー(約880~2200円)の罰金が科されるようになった。

しかし実際はあまり運用されていないようだ。「カーストに基づく差別や暴力を処罰しないケースはネパールでは依然として多い」(国連のミチェル・バチェレ人権高等弁務官)

教育面でのダリット優遇政策も、功を奏していない。ダリットの42%が貧困層(全体では25%)。その理由のひとつが就学率の低さだ。そこでネパール政府は2009年から、義務教育(1~8年)の授業料を無償化。9~10年生の授業料もダリット(女子も)は免除にした。

この改革に伴い、ネパール全体の義務教育の就学率は2004年の81%から2016年は97%へと上がった。だが学校に通う生徒が増えても、教師やダリット以外の生徒から受ける差別や嫌がらせはなかなかなくならないというのが実情だ。