昨年バンコクの中心にあるデパート、オフィス、ホテルが入った大型商業ビルで火災が起こった。

3棟に分かれたビルの一角、ワンフロアの火災だったので被害は大きくはなかったが（それでも1名の死者が出た）ちょうど打ち合わせがあり私もそのビルにいた。私がいた棟には煙は来なかったが、それでもプラスチックの焼ける嫌な匂いがした。

私達はとりあえずビルから出ようとメインエントランスに向かったら、扉が固定出来ないタイプだったので、避難する他の人の為に私とスタッフがずっと両扉を押さえていた。そして扉を押さえる私達の前をビルの社員が通り過ぎていった。「お前が先に逃げてどうする。扉押さえろ。」そう念を送ったが、当然届かない。「皆が避難しているところと私」という感じの自撮りをする暇があるなら扉を押さえろ。それを友人にLINEで送る暇があるなら扉を…！

てかこのメインエントランスの扉固定できないってどうなの。建築法的にどうなの。

ビル前の広場に出て唖然としたのは、人々が駐車場に殺到し、車で出ようとしていることだ。それでただでさえ渋滞の酷い正面道路は詰まりに詰まり。遠くでパトカーや消防車のサイレンが鳴り響くが全く音が近くならない。最大8車線になる通りが、斜めや割り込みしようとする車の群でどうにもならなくなっている。

次の日の報道では、煙が充満する地下駐車場で車の案内をする警備員に称賛の声。だそうだ。違う。恐ろしいほど違う。そういう話ではない。そういう美談に持っていかないで。車で出ようとするのは危ないことだと非難して。そして学んで。
もちろんタイでも災害訓練は大事だと認識がある（はず！！）うちのマンションでも毎年火災訓練があり、消防隊員が来て消火器の使い方をレクチャーするのだが、開催場所が建物のすぐ脇なうえに火がでかすぎるのだ。車の真横でそんなにガソリンを撒くな。消火器から出た煙が窓から入ってくる。ガソリンの匂いがエントランスにずっと残る。基本近いんだってば。怖いって。そんなことをする人が安全な避難方法を説くのか。そして信憑性を感じることができるのか。無理だ。むしろこの火災訓練が危険だ。

商業ビルの火災を思い返すと、火災のベルが鳴っていなかった気がする。もちろんスプリンクラーも防火シャッターも降りてない。ここまでくるとそもそもあるのかと疑ってしまうが。後日のビル管理会社の発表は、ベルを鳴らすとみんなパニックになるからあえて鳴らさなかった。なる程。同商業施設内でスパを営業している私の知人は、火災に気づかず個室で施術をしていて、施術後誰もおらずびっくりし、入り口が閉まっていた為外に出るのが大変だったそうだ。勿論お客様も一緒だぞ。ベルは鳴らそう。

とりあえず我々が避難した場所からは煙さえも見えず、大した火災では無いのかもとビルの上の方を眺めていた矢先、異臭が鼻をついた。燃える匂いでもなくまさかガス漏れかと視線を下ろすと目の前でドリアンを食べている人がいた。確かにドリアンは持ち込み禁止の場所が多いし、ここで食べるしかないのかもしれないがな。TPOうるさい人はこの状態を見てちょっとキャパ広げて欲しいわ。

という訳でこの一連の大騒ぎの中で私が撮った写真は

煙が充満するビルの入口でもなく（見えた）、
右往左往する渋滞中の車と消防車でもなく（見ていた）、
黒煙があがるビル裏手側ではなく（電車から見えた）、
避難した群衆の中でドリアンを食べる旅行者、

この1枚。。。。

だから私には報道は向かないのだなと、報道関係の仕事してないけどしみじみと思ったし、海外で何か起きた場合に、自分の常識みたいなのを出してると逃げ遅れるから気をつけて！　というお話でした。

（サポーター／Yukiko Aihara）