2015-11-04

ヒューマン・ライツ・ウォッチ、ビルマ:総選挙に根本的欠陥、選挙実施プロセスのかなめに組み込まれる不正と差別

(ラングーン)2015年11月8日に行われるビルマ総選挙には根本的な欠陥があり、ビルマ国民は自らの政府を自由に選ぶ権利を奪われていると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。選挙プロセスには体系的で構造的な問題がある。たとえば独立した選挙委員会の不在、与党による国営メディアの支配、議席の25%の国軍への割り当て、差別的な有権者登録法、ビルマの一部で生じている多数の人の選挙権剥奪などだ。

「投票日の11月8日に有権者が長蛇の列を作っても、根本的な欠陥のある選挙が自由で公正なものになりはしない」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長ブラッド・アダムスは述べた。「今回のビルマ総選挙は、国軍が支える現政権が改革と民主国家建設に真摯に取り組んできたかの試金石だ。しかしそこには致命的な欠陥がある。選挙委員会は偏向し、国営メディアは与党に支配されているほか、ロヒンギャなどから選挙権と被選挙権を奪う法律や政策の存在も挙げられる。」

今回の総選挙では、1990年以来初めて本格的に国民の意思が問われることになる。1990年総選挙では野党・国民民主連盟(NLD)が圧倒的な勝利を収めたが、国軍によって結果は無効とされた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチによれば、国際社会が自由で公正な選挙の構成要素と認めるものの多くが、ビルマの選挙実施過程には存在しない。たとえば表現・結社・集会・移動の自由の権利、暴力・威嚇・脅迫のない環境での候補者と投票者の参加、普遍的で平等な選挙、立候補権、投票権、秘密投票権、差別のないことなどだ。こうした権利の行使にあたっては、実効性を持ち、中立で独立した、責任ある行動をとる選挙執行機関が存在すること、候補者と諸政党が国家の資源を平等に利用すること、候補者と諸政党が偏りのない国営メディアを平等に利用すること、異議申し立てと紛争を解決する独立かつ中立なメカニズムが存在することなどが求められる。

大きな懸念の1つは、連邦選挙委員会(UEC)が全国レベルと地域レベルでともに独立性と公平性を欠いていることにあると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。ティンエイ連邦選挙委員長は元国軍幹部で、就任直前に与党・連邦団結発展党(USDP)の国会議員を辞職しているが、これまでも公平性の欠如を示す見解を表明している。2015年6月には「私は委員長なので政党への愛着は持たないことになっている…愛着はあるが、それを前面には出さないだけだ…私はUSDPの勝利を願うが、ずるはせず公正なやり方で勝ってほしい」と述べていた。

また4月には、国軍の現役将校に25%の議席を割り当てる憲法の規定を擁護し、将来のクーデターを防ぐためにこのルールが必要だと主張した。2015年総選挙を自由かつ公正に行うと公約する一方、過去の軍事政権と深く通じる言い回しを使って「規律正しく民主的な方法」で執り行うとも発言している。3月27日に首都ネイピドーで行われた国軍記念日の軍事パレードには軍服姿で出席し、「私は軍服を着ることに命をかけている。いま軍服を着ているのは、そうしたいからだ。それが、たとえこれが原因で[UECを]辞すことになることがあっても軍服を着る理由だ。とはいっても、軍服を着たら辞職しなければならないとする法律はない」と言い放っている。

選挙手続きには適切な苦情解決メカニズムも備わっていないと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘する。苦情はUECの下に設置される特別審査会で審議され、3人の調停員は選挙委員が務める。しかし国際基準は守られていない。申立人は審査会の最終決定をUECに上訴することしかできず、司法機関の監督なしで下されるUECの判断が最終判断となる。

村落単位での開票作業も懸念材料だと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘する。複数の村落の投票をまとめ、地域や郡単位で開票するのではなく、村落単位で作業を行うことは、投票行動を理由とした、当局による特定の村落への脅迫や報復の原因ともなりかねない。

「大規模集会が開催されているのは良い兆候だが、ある政党を他の政党より組織的に優遇する選挙制度の欠陥が補われるわけではない」と、前出のアダムズ局長は述べた。「今回の制度には、投票終了後の苦情や大きな紛争を解決する独立公平な手続きがない。」

国軍が自らの利益を確保するために行った偽りの国民投票を受けて国軍が公布した2008年憲法は、選挙の対象を全議席の75%とし、上下両院の25%を現役国軍将校に割り当てる。国軍は与党USDPを創設し、現在も同党と連携をとっている。したがって野党が連立して議会で過半数を取るには、選挙で争われる議席のうち3分の2を獲得する必要がある。対照的にUSDPが実質過半数を確保するには、議席の3分の1を取ればよい。

また現憲法は、11月8日の総選挙で成立する国会が2016年に選ぶ次期大統領について、外国籍の配偶者または子どもがいてはならないとする。これは外国籍の子ども2人を持つ野党指導者アウンサンスーチー氏を標的とした規定だ。

総選挙で野党が国会で過半数を取っても、国軍に指名された25%の議員から賛成票を得なければ憲法は改正できない。野党側は最近、憲法改正に必要な賛成票を、現状の75%から70%にして国軍から拒否権を奪おうとしたものの、提案は否決された。

憲法はさらに国軍について、「国家緊急事態」には議会を解散できると定めている。

「議席の25%が国軍に、また国軍が支持する政党に割り当てられるのなら、たとえ投票前であっても選挙が公正なものだと考えることはできない」と、アダムス局長は述べた。「ビルマの政党が仕組まれた選挙に参加せざるをえないからといって、そこに不正工作がないとは限らないのだ。」

プレスリリース:https://www.hrw.org/ja/news/2015/11/04/283099