先進国で子どもの格差広がる、ユニセフ報告書
ユニセフ(国連児童基金)が本日発表した報告書は、格差が先進国の子どもたちにどのような影響を与えているのかを明らかにします。
報告書『子どもたちのための公平性』発表
『イノチェンティ レポートカード13 子どもたちのための公平性:先進諸国における子どもたちの幸福度の格差に関する順位表』は、欧州連合(EU)または経済協力開発機構(OECD)に加盟する41カ国を、底辺に置かれた子どもたちが、「平均的」な子どもたちからどの程度取り残されているか、に基づいて順位付けしています。報告書はこれを“底辺の格差”と呼び、所得、学習到達度、主観的な健康状態、および生活満足度に関してそれぞれ分析を行いました。
日本語版の巻頭では、首都大学東京 子ども・若者貧困研究センター長の阿部彩氏が、日本の子どもの格差の状況について、独自のデータも加えて解説しています。阿部氏は「日本の子どもの貧困率は高いそうだが、日本は比較的平等だから、それほど酷い貧困状態の子どもは少ないのだろう、と思っていらっしゃる方には、本レポートは驚きとなるでしょう」と述べ、従来の「何人(何%)の子どもが貧困なのか」ではなく、「貧困とされる子どもたちがどれほど深刻な状況にあるのか」(貧困の深さ)に着目する本報告書の意義を強調しています。
日本は所得格差で下位
日本についての主な結果は以下の通りです。
・子どもの相対的所得に関する“底辺の格差”の順位では、41カ国中で下から(格差が大きい方から)8番目で、所得分布の下から10%にあたる子どもの世帯所得は中央値にあたる子どもの約40%。
・学習到達度における“底辺の格差”の順位では、37カ国中で下から11番目。
・1985年から2012年にかけて、子どもの相対的所得の“底辺の格差”が拡大し、それは中位の所得が上昇したのに対し、底辺では所得が減少したことによってもたらされた(阿部氏の独自のデータ)。
(主観的健康と生活満足度については、日本はデータが含まれず分析の対象となっていません)
先進国で暮らす子どもたちの格差
全体では、子どもたちの間の格差が最も小さいデンマークが、総合順位表のトップに位置し、最下位はイスラエルでした。調査対象国41カ国のうち19カ国では、底辺(下位10%目)に置かれた子どもは、中央値の50%に満たない所得で生活しています。
子どもたち自身の回答に基づく健康上の問題症状の格差は、2002年から2014年の間で、ほぼすべての国で拡大しました。一方、運動や不健康な食生活の格差については大半の国で大幅な減少が見られました。また、読解力の到達度についても、大半の国で底辺の格差が縮小しました。子どもたちが自身の生活への満足度に関して0~10のスケールで評価すると、平均スコアは8です。しかし、分布の下位の子どもたちは、その他の子どもたちから大きく取り残されています。また、いずれの国でも、13歳と15歳の女の子は、同年齢の男の子よりも低い生活満足度を示しました。
その他以下のような結果も示されました。
・日本と同様、アメリカも所得格差の順位表において下位3分の1に位置付けられた。
・スペインとアメリカのみが、2002年以降、健康関連の4つの指標全てにおいて改善を見せた。
・エストニア、アイルランド、ラトビア、ポーランドの4カ国のみが、学習到達度の格差を是正しつつ、最低限の習熟度レベルを下回る子どもたちの割合の低さを実現している。
子どもたちの幸福度を高めるために
「報告書が明らかにしたのは、いずれの国においても、子どもの幸福度は、個人の置かれた状況や経済発展の水準によって必然的に決まるものではなく、政策の選択により決定付けられるものだということです」とユニセフ・イノチェンティ研究所のサラ・クック所長は話します。「格差の長期的影響に関する私たちの理解が進むにつれて、各国政府が今日の全ての子どもたちの幸福度を高めることを最優先し、子どもたちが潜在能力を発揮するための機会を提供しなければならない、ということがますます明らかになっています」
レポートカード13は、子どもたちの幸福度を高めるため、以下のような政府の取り組みを提言しています。
・最も貧しい子どもたちの世帯の所得を改善する。
・不利な状況に置かれた子どもたちの学習到達度を向上させる。
・全ての子どもたちに対して健康的な生活習慣を促進、支援する。
・主観的な幸福度を重視する。
・公平性を子どもの幸福度の課題の中心に位置付ける。