国境なき医師団、EUからの資金は要らない
国境なき医師団(MSF)は、欧州連合(EU)の諸機関やEU加盟国からの資金受給を停止する。諸機関には、欧州委員会人道援助局(ECHO)も含まれる。理由は、渡欧を試みる移民・難民など保護希望者について欧州がトルコと交わした取り決めに賛同できないからだ。
保護希望者の医療・人道ニーズに対するEUと加盟国の取り組みに、MSFはたびたび深い懸念を示してきた。資金提供の辞退の決定は、MSF内で何週間にもわたる議論と検討の末に下されたものだ。これは世界中のMSFの活動に適用される。
2016年分を辞退――不足分は緊急援助活動費で補填
2015年は、EU諸機関から提供を受けた資金が1900万ユーロ(約22億4000万円)、EU加盟国からは3700万ユーロ(約43億6000万円)だった。
今後、欧州10ヵ国(※)から2016年分として割り当てられた未契約分1000万ユーロ(約11億8000万円)を含む合計4600万ユーロ(約54億2200万円)の受給ないし受給契約は行わない。すでにEU資金が活用されている活動は契約期限まで続けるが、大半が2016年中に契約が終了する予定だ。
今回の決定で生じる不足分は、緊急援助活動に使用される準備金の投入で補てんし、患者の不利益を回避する。患者のニーズはMSFのいかなる決定においても常に優先される。
※この10ヵ国には、EU加盟国ではないがシェンゲン協定に加盟するノルウェーを含む。
活動資金の9割以上は民間から――独立性と透明性を確保
EU関連の資金提供は辞退するが、それがMSFの活動予算に占める割合はわずかだ。活動資金の92%は世界570万件の民間からの寄付に支えられている。日本事務局に限れば、95%以上が民間の寄付だ。
活動資金の大部分を民間からの寄付としているのは、独立性と透明性を確保し、臨機応変に緊急援助活動を行うためだ。
一方、諸機関・団体から資金提供を受ける場合は、MSFの人道的価値観に合致し、中立・独立・公平の立場を損なわれないことが保証される場合に限っている。
EUおよび加盟国の動向を注視
政府からの資金を受け入れる際は、交付金や助成に関する具体的な受給方針を策定する。さらに、出資国の人道支援方針や紛争へのかかわりも考慮し、金額に上限を設けている。
アフガニスタンやイエメンの国内、シリア人難民への援助など特に中立性と独立性が強く求められるケースでは、民間からの寄付だけを運営費に充てている。
今回の決定により、EUおよび加盟国からの資金は受け取りを見合わせるが、カナダ、スイス、日本からの助成は引き続き受給する。
また、EUと加盟国が保護希望者の人道上のニーズに前向きな取り組みを実施するようになれば、決定の見直しを検討する。