微笑の国タイ。この国の市場を歩くと今、頻繁に目にするものがある。「タイスティック」や「ピンククシュ」のラベルがはられた緑の植物。そう、大麻だ。タイ政府は2022年6月、大麻の所持と使用、栽培と販売を解禁した。大麻が合法になってタイ社会はどう変わるのか。タイ北部の古都、チェンマイで大麻に関わる人から話を聞いた。
うつ病が治った
チェンマイの市内からレンタルバイクで15分、緑豊かな郊外にアトリエ兼カフェ「アウイカムホームスタジオ」がある。ここで麻の服のデザイナーをしているのがニュー(本名:パヌワット・ソーンラック、36)だ。ニューは大麻が解禁された6月から、裏庭で栽培を始めた。
「あと2カ月もすれば花が咲く」
ニューは大麻の葉を愛でながら笑顔を見せる。
長髪にひげを蓄えたニューは見るからにヒッピー。大麻の栽培も自分が吸うためだろうとたかをくくっていた。だが詳しく話を聞いていくうちに、そうでないことが分かった。
ニューの母親は長年、腰椎のヘルニアに悩まされてきた。痛みから夜も眠れず、うつ病も併発した。その苦しみから救ってくれたのが大麻だった。母親は大麻の医療利用が解禁された2018年、病院で大麻オイルを処方してもらった。
使い方は簡単。寝る前に大麻オイルを2、3滴服用するだけだ。だがその効果はてきめん。腰痛の痛みがなくなり、夜もぐっすり眠れるようになった。昔に比べて食欲もでてきて、今は元気に働いているという。
「これまでどんな薬も効かなかったのに大麻オイルを飲んでから痛みがなくなった。幻覚や依存症といった副作用も一切ない」(ニュー)
大麻と同じ品種であるヘンプを日頃から扱っていることに加え、医療大麻の効果を実感したニューは、友人から大麻の苗を譲り受け、栽培を始めた。
「今はまだ栽培方法を探っているところ。将来はデザイナー業に加えてヘンプと大麻の農園を持ちたい」とニューは話す。