フィリピン経済の特徴のひとつは、外貨収入を出稼ぎに頼っていることだ。フィリピン中央銀行によると、海外労働者の外貨送金は2013年、251億ドル(約2兆5100円)となり、国内総生産の8.4%を占めた。およそ229万人が海外で働くが、このうち約114万人(約50%)が女性だ。
セブ市立テヘロ小学校の児童72人(9~10歳32人、11~12歳40人) に「将来フィリピンに住み続けたい? それとも外国に行きたい?」と聞いたところ、半分が「フィリピンに住み続けたい」と答えた。その一方で、残り半分の 児童は「外国に行きたい」。その理由を聞くと、多くが「出稼ぎをしているお姉ちゃんに会いたい」「おばさんに会いたい」と回答。「働くために海外に行きた い」と語る女子児童もいた。
国策で海外への出稼ぎを奨励するフィリピン。児童にとっても、海外は比較的身近な存在だ。だが、出稼ぎ労働者の安全は必ずしも保障されてはいない。子どもたちは将来、どのような道を歩んでいくのだろうか。
■「フィリピンが自分の故郷」「家族と離れたくない」
インタビューした小学生のうち、9~10歳の17人、11~12歳の20人は「将来もフィリピンに住みたい」と回答した。理由の中で最も多かったのは「ここが自分の国だから」というものだ。トゥリアーナさん(9歳)は「私はフィリピンで生まれたから、ずっとここに住む」と話す。ジャンタネーロ君(11歳)は「僕はセブを離れない。フィリピン人であることを誇りに思っているから」と胸を張る。その次に多かったのは「自分の家族と一緒にいたい」というもの。クリスティンさん(12歳)は「外国に行ったら、家族が恋しくなってしまう」と笑う。彼らの回答からは、土地と家族への深い思い入れが伝わってくる。
■「自分でお金を稼ぎに行きたい」
対照的に、9~10歳の15人、11~12歳の20人は「外国に住みたい」と答えた。地域としてはアジアが最も多く、次いで北米、欧州、中東と続く。国別に見ると、一番多いのは日本で、その次に同票で韓国、米国、カナダ。日本に票を入れたジュリアーナさん(12歳)は、父が日本人。「おじさん夫婦やいとこに会いたい」と嬉しそうに話す。また、「香港に行きたい」と語ったマリアさん(9歳)は「ディズニーランドで遊びたい」と目を輝かせる。
理由として一番多かったのは「海外に出稼ぎに行っている家族や親戚に会いたい」という答えだ。デンマークで姉が働いているというジョシュア君(10歳)は「姉がいないのでさみしい」と悲しげな表情を浮かべた。
行きたい国を回答した20人のうち、外国で家族や親戚が就労しているのは5人。「自分も外国で働きたい」と語ったのはジョリアナさん(9歳)だ。「ドバイで働いて、いっぱい稼ぐのが夢。私の家族はお金がないから」と、小学生とは思えない大人びた表情で語った。
■続く差別や暴力、止められるか
外国で働いて、たくさん収入を得ること。フィリピン人の子どもなら、一度は夢見ることだ。しかしそんな期待とは裏腹に、海外労働者が置かれている現実は厳しい。その一例が、家事労働者(メイド)だ。槙太一・京都学園大学准教授(現関西外語大学准教授)によると、2007年に新規に雇用された出稼ぎ労働者30万人のうち、最も多い職業は家政婦の4万8000人で全体の15.6%を占める。渡航先で、雇用主に暴力を振るわれることも少なくない。
2013年は、家事労働者にとっては画期的な1年となった。9月には、家事労働者条約が発効した。この条約は、家事労働者が他の労働者と同じく、基本的な労働権を持つことを保証するもの。フィリピンは同月にこれを批准した。また10月には、家事労働者のための組合「国際家事労働組合総連合会」が設立された。家事労働者のグローバルな組織化、戦略の共有、権利推進のアドボカシーを目的に、活動を進めている。
だが、依然として出稼ぎ労働者に対する差別や暴力は続いている。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、条約の発効を受けた中南米や欧州連合(EU)での国内法改正を支持する一方、動きの鈍いアジアや中東に対し、即時の対応を求めた。アムネスティ・インターナショナルが2014年に発表したレポート「睡眠だけが休息:カタールの家事労働者が受ける搾取」によると、カタールの外国人家事労働者は、雇用主による暴力や外出禁止、給料の未払い、週100時間労働などに直面するケースが多いという。
はびこる差別や暴力に対し、新法や組合はどう立ち向かっていくのか。今後の労働状況の改善に期待がかかる。