私が暮らすガーナは、南アフリカに次ぐアフリカ第2位の金産出国だ。ところがこの国では近年、「違法採掘」の問題が深刻になっている。地元紙には「ガラムセ」(違法採掘者の意。英語の“gather them and sell”に由来)という言葉が躍る。ガラムセの行為は、経済だけでなく、ガーナの社会全体に大きな損害を与えている。金の違法採掘の「裏」に何があるのかを探ってみた。
■きれいな水と農地を返せ!
金の違法採掘とは何を指すのか。金の採掘は「大規模なもの」と「小規模なもの」に大別できる。問題なのは小規模の採掘だ。
ガーナの法律は「小規模な金の採掘が許可されるのはガーナ人だけ」と定めている。つまり、小規模な金採掘にかかわる外国人はすべて「違法採掘者」ということだ。
違法採掘者は政府の許可を得ずに金を掘る。このため税金や採掘料は払わない。世界銀行の2011年のデータによると、ガーナの鉱業セクターでは金が鉱物収入の95%を占めた。鉱業セクターの輸出収入は全体の41%にもなる。またガーナの税収の14%は鉱業セクターからだ。金がガーナ経済のけん引役であることを考えれば、違法採掘が経済に与える損失も決して少なくないことがわかるだろう。
金の違法採掘は、環境への被害も甚大だ。合法な採掘と違って、環境配慮がないからだ。このため広大な農地が失われたり、森林が伐採されたり、川に有害な汚染物質が垂れ流しになるケースもざら。金の違法採掘が特に多いとされるガーナ南部(アシャンティ、ウェスタン、セントラル、イースタンの各州)では目に見えるレベルで川が汚い。
川の汚染は生態系の破壊だけでなく、そこで暮らす人たちにとっては安全な飲み水が失われることをも意味する。収入源としての農業が成り立たなくなる可能性もある。ガーナの法律は、採掘者に対して、土地の所有者に損害を補償するよう義務付けている。だが違法採掘者はそんなルールはお構いなしだ。
■違法採掘は治安悪化も招く
ガーナの小規模な金採掘はこのところ、これまでの手作業から、急速に「機械化」しているという。作業の効率化に伴って、環境への悪影響は増大している。
鉱物資源採掘の規制・監視・政策実行を担当するガーナ政府機関「鉱物委員会(MC)」に17年勤める職員は「ブルドーザーなどの高度な機械や火薬類を持ち込んだのは外国人、とくに中国人だ。外国人の違法採掘者が目に見えて増え始めたのは2009年以降。この年、世界市場で金の価格が跳ね上がった」と説明する。
金の違法採掘がされている地域で生活する住民の多くは違法採掘者に強い怒りを感じている。「(こうした地域では)違法採掘に反対する者と違法採掘をサポートする者との間で、必ずと言っていいほど衝突がある。暴力沙汰になることもある」とMCの職員は言う。
2012年7月にはアシャンティ州マンソ地区で、地元住民が中国人の違法採掘に反対するデモを起こした。これに対して中国人の違法採掘者がショットガンを発砲し、住民を威嚇するという事件が起きた。デモの背景には、金の違法採掘によって住民らが保有するカカオ農園が荒らされ、貴重な収入源を失ったことがあった。金の違法採掘は、地域の治安まで悪化させるのだ。
■ガーナ人が中国人を誘導!?
ガーナでは「違法採掘者=中国人」とのイメージが強い。中国人の違法採掘者が多いのは事実だ。その証拠に、ガーナ政府は2013年6月、4500人以上の中国人を逮捕し(または自首)、本国へ送還した。
香港紙サウス・チャイナ・モーニング・ポストによると、5万人以上の中国人が2005~13年の8年間にガーナへ入国し、その大半が金採掘にかかわっているという。MCの職員も「違法採掘者の国籍は、ガーナ、中国、インド、レバノン、トルコ、アメリカ、ロシア、他の西アフリカ諸国(ナイジェリア、ニジェール、マリ、ブルキナファソなど)などさまざまだが、採掘場とその周辺で見る限り9割は中国人」と推測する。
しかし中国人の違法採掘者が多いからといって、ガーナ人抜きで金の採掘はできないのでは、と私は思う。MC職員も「中国人を誘導するガーナ人がいるに違いない」と断言する。
違法採掘場所のほとんどは、外国人が立ち入らない奥地だ。中国人の違法採掘者は、現地語はもちろん、英語さえ話せない人が大半だという。言葉を知らない外国人が、異国の奥地にある採掘場所まで、自力で入り込めるはずはないだろう。
「中国人の違法採掘者は、採掘場から出て町で堂々と買い物をし、隠れるそぶりもなかった。自分たちが違法採掘をしていることすら知らない人もいるのではないか」(MCの職員)
■賄賂・不法入国斡旋・土地の取引
違法採掘の問題を掘り下げていくと、ガーナ政府の職員や民族の首長の関与も見逃せない。「ガーナの外からやってくる違法採掘者の中には、トランジットビザで入国する人、ビザなどの必要書類を持たない人もいる。ということは、入国管理局の職員が賄賂と引き換えに違法採掘者を入国させている可能性が大きい」とMCの職員は説明する。
採掘場所をどう確保するのかという疑問もある。MCの職員は次のように話す。
「土地を違法採掘者に売るのはガーナ人だ。アカン(ガーナで最大の民族)の伝統では、土地の所有権は首長にある。首長が違法採掘者に直接土地を売り渡したり、地元住民が違法採掘者と首長の仲介人となって土地を取引したりする」
ちなみにガーナの法律は「すべての鉱物資源は国の財産であり、大統領に帰属する」と定めている。一部のガーナ人のこうした行為は違法だ。
金の違法採掘について調べてわかったのは、採掘作業をしているのは中国人。だがその背後で、違法採掘者の活動を可能にしているのは他でもないガーナ人ということ。この事実は、私の目には、16~19世紀の奴隷貿易の歴史に重なって見えた。
ガーナに当時あった王国や個人は内陸から奴隷を連行し、西洋人が持ってくる品物と交換し、利益を得ていた。西洋人は「奴隷の調達」という最重要ポイントをガーナ人に委ねていた。「外国人=加害者」、「アフリカ人=被害者」という構図は、あまりにも単純すぎるのではないかと今回改めて考えさせられた。(矢達侑子)