カンボジアの縫製労働者は人権侵害にあっている。カンボジア政府と国際的なアパレルブランドは労働者を守るべき――。ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は3月12日に発表した報告書「のろのろやるな、クビにするぞ:カンボジア縫製産業での労働権侵害」の中でこう指摘した。カンボジア工業・手工芸省によれば、同国では70万人以上がアパレル業界で働く。その9割が女性だ。
報告書によると、多くの工場が違法な「短期契約」を繰り返し、産休などの給付の支払いを逃れ、労働者を脅しているという。HRWが調査した73の工場のうち、国際アパレルブランドに製品を納める48の工場で、超過勤務を労働者に強制していることがわかった。命令を拒んだ場合、解雇や賃金カット、懲罰目的の異動などを受けるケースも少なくない。
調査対象のおよそ半分の35の工場では、労働組合活動への嫌がらせが明らかになった。解雇や脅迫、労組の結成・加入を防ぐために男性を短期雇用にするというのが常套手段だ。
30の工場では、女性労働者への権利侵害が深刻だ。契約更新を拒否されたり、妊娠に対する配慮がなく仕事を続けられなかったり、また病気になっても休暇を取れないこともある。11の工場では違法な児童労働も報告された。
HRWがとりわけ問題視するのは、こうした労働者の人権侵害に国際的なアパレルブランドも関与していることだ。「ブランド側には影響力がある。縫製工場との契約を、労働者の権利侵害を生じさせないようにする力も、また義務もあるはず」とHRWの担当者は訴える。
今回の調査でHRWは、アディダス、アルマーニ、GAP、H&M、ジョー・フレッシュ、マークス・アンド・スペンサーの6つのブランドと接触した。このうちアディダスとGAP、H&Mは、カンボジアの労働問題への取り組みをHRWに対して説明。具体的にはアディダスとH&Mは、サプライヤーの名称を公表し、定期的にリストをアップデートしている。またマークス・アンド・スペンサーは2016年にサプライヤーの一覧を公表すると約束した。内部告発した労働者の保護手続きを設けているのはアディダスだけだった。
カンボジアでは13年、14年と最低賃金が上がった。そのためアパレルブランドが「より安価な労働市場」に逃れるのでは、とカンボジア縫製業者協会(GMAC)は恐れている。国際労働機関(ILO)は賃金が上昇した場合、工場側が負担するコスト増加分の一部をアパレルブランドに吸収するよう求めている。ところがそのしわ寄せは労働者にいっているのが実態だ。(編集部)