レイプに脅えるソマリア女性たち、ヒューマン・ライツ・ウォッチは「政府が対策をとるようドナーは圧力を!」

人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は2月13日、ソマリアの少女・女性がレイプされ、苦しんでいる実態をまとめた報告書「ここではレイプは日常のこと」を発表した。HRW女性の権利局のリーズル•ゲルントホルツ局長は「ソマリアの首都モガディシオでは多くの女性と少女がレイプの恐怖のなかで暮らしている」と指摘。ソマリア政府は性暴力と闘うと約束しているが、実効性のある改革を速やかに実行すべきだ、と訴えた。

報告書の作成にあたってHRWは、モガディシオ在住で、レイプされた経験をもつ女性27人にヒアリングした。この結果、一部の証言者は数回にわたってレイプされていること、またすべての事件が2012年8月のソマリア新政府の誕生以降に発生していたことがわかった。

国連によると、モガディシオだけで2013年上期に800件近い性暴力事件が起きたという。ただ多くの女性はレイプなどの被害届を出さないことからこの数字は氷山の一角で、実際の被害者はこの数を大きく上回るとみられる。またレイプ被害者の約3分の1が18歳未満の少女という国連児童基金(UNICEF)のデータもある。

女性・少女をレイプする加害者は武装した男たちだが、ソマリア軍の兵士も含まれているという。とくにターゲットとなっているのが、内戦や飢饉で、国内の避難民キャンプで生活せざるを得なくなった女性・少女たちだ。犯行現場は、キャンプの中や市場に向かう途中、農地を耕したり、薪を集めている最中など多岐にわたる。

キャンプの仮設住宅でレイプされた女性(34歳)は集団で襲われた。「被害者の女性のほとんどはキャンプに住む避難民だから、男たちは発覚することを怖がっていない。レイプの最中に、犯人のひとりは『レイプされたことは誰に言っても構わない。怖いものなんかない』と言い放った」と明かす。ソマリアではレイプ犯が裁判にかけられることは皆無。レイプしても処罰されないという法支配の欠如がソマリア国内にレイプをまん延させている。

仮設避難所で集団レイプされたシングルマザーの女性(37歳)は、警察へ被害届を出そうとした。ところが警官は、レイプの傷口から血が出ているのを見て、彼女を蔑んだという。「私を追い出す前に、床に流れた血をきれいにしていけって言われた」。この女性は事件の3カ月後、再び集団でレイプされた。だがもう警察に被害を届け出ることはなかった。

ソマリアでは被害届を出すことで犯人に報復されたり、社会的に差別されたりすることすらあるのが実情だ。HRWのスタッフが被害届を出さない理由を被害者に尋ねたところ、ある女性は答えた。「ソマリアではレイプはよくあること。レイプは日常」

ソマリア政府は、性暴力を「優先課題」として包括的に対処すると約束している。だがこれまでに改善はみられない。HRWはソマリア政府に対して「避難民の女性・少女を守るため、訓練を受けた警官(女性を含む)を十分に配置すること」「暴力から立ち直ろうとしている女性・少女に対し、必要な支援をすること」「教育を通じて、男女平等や女性の政治参加を促すこと」などの対策を提案している。

事態を改善させるためHRWのゲルントホルツ局長は「レイプ対策を最優先に据えるよう、ドナー(援助国・機関)はソマリア政府に圧力をかけるべきだ」と訴えかけている。(堤環作)