持続可能な森林管理を目指す米国のイニシアチブ「フォレスト・リーガリティ・アライアンス(FLA)」と国際環境NGO「FoE Japan」、地球・人間環境フォーラムは11月12日、違法伐採対策セミナー「米国改訂レーシー法と木材業界への影響」を都内で開催した。講演したのは米法務省環境犯罪担当のチーフをかつて務めたジョン・ウェブ氏(写真)。「世界では、違法伐採を厳しく取り締まる流れがある。だが日本には規制がなく、違法伐採の木材が多く入ってきている」と問題点を指摘した。
■米国では違法木材の販売に懲役刑も
米国で違法伐採を取り締まる法律が「レーシー法」だ。1900年に制定されたもので、当時は、野生動物を保護する目的から絶滅危惧種の違法取引を規制していた。ところが2008年の改正で、木材などの植物も、規制の対象に含まれるようになった。
改正レーシー法は、違法に伐採された木材とその製品の販売や流通の過程での違法取引を禁じている。木材や木材製品を外国から米国へ持ち込む際は、税関へ「違法に伐採した木材ではない」と明記した申告書類を提出することが義務付けられている。もし仮に「違法伐採の木材」であることが発覚した場合、罰則は、最も重いもので50万ドル(約4000万円)の罰金と5年以下の懲役だ。
難しいのは、申告したからといって、額面通り「違法伐採の木材ではない」とは限らないことだ。途上国では賄賂のやり取りは一般的。木材の認証機関の担当者にお金を渡せば書類は簡単に偽造できる。実際、こうしたケースは稀でないという。
また、ウェブ氏によると、違法伐採の輸出には犯罪組織がかかわっている場合もある。犯罪組織は、伐採地で地元民に対して過酷な労働を強制したり、森林が回復するペースを上回るスピードで木を切り倒したりといった人権・環境問題を引き起こしているといわれる。
ではどうすれば、本当に違法伐採ではないという事実を確認できるのか。そこで重要となるのが、企業や認証機関などのステークスホルダー(利害関係者)による「デュー・ケア」(しかるべき注意)だ。木材を輸出する側、輸入する側の双方が木材の出所を監視し、違法木材を市場から締め出すというのが不可欠。換言すれば、デュー・ケアがない限り、違法伐採問題の解決はとてつもなく困難といえる。
■“欧米に輸出できない木材”が日本へ
米国ではここにきて、レーシー法への注目度が高まっている。その背景にあるのが、ひとつは米国人消費者の意識の変化。そしてもうひとつは、同国の木材業界の不況だ。
消費者の多くはこれまで、木材の属性を気にすることはなかった。合法に伐採された木材を使った製品は値段が高いということもあって、合法の木材製品を購入するのは、環境意識の高い人に限られていた。ところがいまは、「木材は環境にやさしく、再生可能な建材」との認識が広がり、合法木材を積極的に買う人が増えている。
米国には、レーシー法が改正される08年まで、ベトナムや中国で違法に伐採された安価な木材が入ってきていた。このため木材の市場価格はいまと比べて10~15%安かった。こうした状況もあって、00~07年に約30万の林業家が失業に追い込まれたという。ところがレーシー法の改正で、違法伐採された木材の取引件数は改正前と比べて30%減少し、木材価格は部分的に上昇傾向にある。
違法伐採された木材に対する取り締まりで、米国が成功を収めつつあるのとは対照的に、日本の取り組みは完全に遅れている。日本は「欧米に輸出できない木材」の行き先となっているのが現実。その理由は、違法伐採された木材の売買を取り締まる法律がないからだ。
グリーン購入法も、公的機関に対して「環境負荷の低い製品・サービス」の使用を促すだけで、違法伐採された木材そのものを取り締まる法律ではない。森林管理認証機関レインフォレスト・アライアンスのある職員は「東南アジアの木材輸出業者から『欧米に輸出するために認証を取りたい』と相談を受けることはあっても、日本市場を意識した相談はない」と話す。
英国のシンクタンク王立国際問題研究所によると、日本が11年に輸入した木材の30%は、マレーシア、ロシア、インドネシア、中国の4カ国から来ている。この4カ国からの木材が日本に流入する違法木材の80%を占めると報告している。
ジョン・ウェブ氏は「日本は世界有数の木材輸入国。成熟した市場と高い環境意識をもった消費者がいるのに、違法伐採された木材を規制する法律がない。欧米と同レベルの法整備に力を入れてもらいたい」と訴える。(依岡意人)